防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

近隣住民との些細な騒音卜ラブルが殺人事件に発展することも

『引つ越〜しf引つ越〜しさつさと引っ越〜しシバクぞ!』
向かいの住人に対し、24時間大音量のCDラジカセを流すなど、長年にわたり嫌がらせを続けていた奈良県の主婦が先月傷害罪容疑で逮捕された。
その強烈な姿はテレビのワイドショーなどでもご覧になった方は多いだろう。まった
くもって、あんなオバサンが近所に住んでいたら、恐怖以外の何者でもない。
ではあの引っ越しオバサンは世にも希な異常者だったのか。違う。

平成15年6月の宇都宮、7 月に高知で起きた刺殺事件。同年9 月には京都で銃による殺傷事件。いずれも元を辿れば、騒音などの身近なトラブルが発端だ。
普段から円満な近所付き合いを心がけていれば住民卜ラブルとは無縁。もはや現代は、そんな常識が通用しない時代なのかもしれない。
「テレビに洗濯機、掃除機、話し声と、どんな些細な音にも、ストレスを爆発させるのが人間ですからね。そんなのが、隣に引っ越して来たらもう終わりですよ」
大嶋翼( 仮名)40才。住民トラブルを請け負う便利屋である。恰幅のいい坊主頭に白のジャ—ジという出で立ちは、どこからどう見てもカタギじゃない。
「オレの仕事は、住民の嫌がらせサポー卜なんだよね。引越しオバサンみたいな連に入れ知恵して稼いでるんだ」
需要があるから供給を施すは世の常。嫌がらせ手助けビジネスの恐るべき実態を紹介しよう。
些細なトラブルならヤクザを装い掃除や犬の散歩から、ダンナの浮気調査まで。本来便利屋とは数多のヨゴレ仕事を引き受ける商売だ。
10年前テキヤ業界から足を洗い、事務所を開業した大嶋にも、近隣トラブルがメシの種になるなど、頭の片隅にもなかったという。

「けど、実際にポスティンクとか電柱に広告を貼るじゃない。そうするとヤバい電話ばっかかかって来るんだよな。『隣人をいくらで殺してくれるのか』とか『死体の後始末は頼めるか』なんてさ。全部断ったけど、オレも飯くわなきゃいけねえじゃん。で、徐々にストー力ー問題とか職場や学校のィジメ、暴走族の撃退なんかを引き受けたわけよ」
元々ヤクザ社会にいた大嶋ゆえ、こうしたトラブルはお手のもの。依頼者の親戚ツラして現場に顔を出し相手_を抑え込む日々が続いた。
そして、口コミで評判が上がり、ここ数年で急増してきた依頼が他でもない近隣卜ラブルである。ちなみに、4力月間だけでも、依頼件数は50を軽く超えるという。
「大半はくだらない揉め事ばかりだけど、金になるからな」
つい3 日前に引き受けたの些細な駐禁トラブルだ
依頼主は会社員夫妻のA
自宅前に車を停めている隣家のBがすぐに文句を付けてくるらしい。Aが高級車に買い換えたことが悔しくてたまらないようだ。
「で、何とか懲らしめたいって言うんだよね」
2日後の早朝大嶋が現場に向かうと、間もなく奥さんが現れた。
「おい! A のバカ野郎あんたのところの車がはみだして、家まで割り込んでるじゃねえか! 」
大声で叫ぶB 夫人。そこで大嶋は、おもむろに顔を出す格好は柄シャツ.刺青姿だ。
『弟にやった車なんだけどそんなに邪魔かよ?悪かったなぁ』
『……いや、その…』
『半分はオレの車だから、文句あったら今から言う番号に電話くれよ』
果たしてB夫人は逃げるようにその場を立ち去っていった。
「別にオレ現役じやないけど相手にヤクザだと映れば大半はカタが付くよね。笑っちゃうのは、A さんもB も元々は仲良かったんだよ。それが地蔵盆の詰め合わせのポッキーの種類で言い合いになってからギクシャクしてんだと。バカだよな( 笑) 」

ワンルームマンションの徹夜麻雀、大音量ステレオ、庭の樹木の毛虫、違法駐車。こ
の程度なら、«危ない親戚»を装えば、簡単に事は解決する、と大嶋は言う。
しかし、これらはあくまで«受け身» の仕事。彼の本領は«攻撃» である。夕ーゲッ卜を不幸に追いやるのが、客が最も大嶋に期待している点なのだ。
「最初に断っておくけど、オレは手口を教えるだけだかんね。滅多なことでは、自分の手は汚さないよ」
アドバイスだけで、料金は50万。それでも注文が途切れないのは、他ならぬ依頼者自身が強い被害者意識を抱いているからだという。
「奈良の引越しオバサンと同じ理屈だよ。みんな«ヤラれたから、ヤリかえす» 方法が
知りたくて、オレを雇うんだ。だったらノウハウを教えるだけで十分だろ」
むろん、大嶋も考えがあってのこと。入れ知恵だけなら万が一警察沙汰になっても県の迷惑条例か脅迫幫助、または弁護士法違反で済む(現実はパトカ—が仲裁にやってくるだけで終わる) 。
さて仕事はまず依頼者と打ち合わせ、イヤガラセの主目的を聞きだすところから始まる。
「一番多いのは、相手の引っ越しだね。示談金をせしめるなんてケースはほとんどない」
「嫌がらせの第1弾。それは、ケースにかかわらず、無言電話から入る。」
「昼夜を問わず一日30回.がノルマ。超古典的だけど'効果は高いんだよ」
結果、相手は、わずか2 3日で、« 誰かに恨まれている» という不安で夜も眠れなくなる。場合によっては、消化器系の能力低下やうつ状態に陥ることも。
「それでも耐えちゃうやつには、生ゴミ放置だねぇ。2 週間くらい発酵させて、ビニールに水蒸気がムンムンしたやつ。魚や肉の黄色い腐敗汁が染みだして夏場はハンパじゃないんだ。近所に猫なんていたら大変なもんだよ」
他にも、車のボディーにブレーキオイルをかけ、剥離剤で塗装をボロにしたり、インターネット地域版に誹謗中傷を書き散らし、「風俗で働いている」などのビラを貼り
まくったりと、手口は様々。
最悪、糞尿を玄関先や庭にバラ撒くこともあるという。
「団地の場合は、水道とかガスのメー夕ーの納戸に火を放っちゃうね。大火事にはならないけど、煤煙の汚れはダメージがハンパない。依頼者がヒマな学生とか奥さんの場合には日記作戦も勧めるよ」

女子大生は、突発性難聴で片耳が不能になった。むろん、彼女が転居したことは言うまでもない
聞くだに、吐き気のするような悪質手口。これでは、相手が引つ越しを考えて当然だ
が冷静に考えると、夕ーゲットの住まいが何も賃貸とは限らない。分譲の戸建やマン
ションだと、簡単に出ていったりしないはずだが。
「その場合は、当然、より手の込んだ手口が必要となるね。基本は騒音。あの引越しオバサンもどっかの業者に吹き込まれたんじやないかなあ。ドアの開け閉めにフトン叩き罵声、クラクションときて最後は軍歌だね。80デシベルで街宣車に匹敵するし、ソノ筋かと思うだろ」
金に余裕のある依頼者の場合には、業者を呼び、壁に直接スピー力ーを埋め込むこともあるという。さらには臭いと煙、光も有効的だそうだ。
「朝から七輪でニンニクや魚を真っ黒になるまで焼いたり。一軒屋の場合には、ベランダでニワトリの雄鳥を20羽飼った猛者もいた。夜明け前の高鳴きだけじやなく、乾燥フンが舞いあがって、とても洗濯物など干せなくなるな」
その一方で昼間は何十枚ものCD盤で照射を続け、夜はレーザーポインターで付け狙う。相手が病気になるまでだ。
「心臓を悪くして、ペースメー力ーを埋め込んだオバサンもいた。しまいには、頭おかしくなって自殺した人もね」
それでも、直接的な因果関係の立証は難しく、加害者に罪が適用されるケースは珍し
いという。
もはや被害者は、一方的なヤラれ損なのか。住民トラブルに詳しい某弁護士は言う。
「現時点での刑法では近隣トラブルを取り締まる法律はありません。府や県の迷惑条
例でも罰則規定がありませんから、意味はないですね。だから、ちよっとモメたと思ったら、事が大きくなる前に『申し訳ないけど…』と穏便に諭すぐらいしかないでしよう」
事実上、泣きを入れるしかないということらしい。が、それで相手に通じるとは、と
ても思えないが。
「その場合は
①無視
②引っ越し
③裁判所へ提訴しかない
です。民事訴訟では嫌がらせをやめさせることと損害賠償請求ができます。そのためには立証が急務ですが…」
いつ何が起こったか。克明なメモと同時に、防犯カメラや音声に記録を残しておく。
ただし、それには味方になってくれる住民の証言が必要。
ビデオやテープは第三者の立会人によって初めて有効な裁判証拠となるという。
しかし、ここまでやっても勝ち取れる額はたかだか数十万でしかない。嫌がらせに対
する絶対的な抑止力は何もないのである。
「だからみんなすぐに引越しちゃって裁判所に判例がないのが現実なんですよ。仮に勝ったところで相手が余計にエキサイトするだけですからね。僕でもたぶん、運が悪かったとあきらめますよ」