防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

大手企業の人事部長を名乗って就活大学生から詐欺

3年前の夏。当時、東京でヒモ同然の暮らしをしていたおれは、その日、ファミレスでひとり定食をつつきながら良い調子で飲んでいた。
隣のテ—ブルにガヤガヤと騒がしい女性がやってきたのは、あらかた肉を平らげたときだ。
「ああ、もぅ面接とか超やだ。ゼッタイ受かんないし」
「アタシなんてもう30社目だよ。就活やめて実家に帰ろうかな」
就職活動真っ最中の女子大生のようだ。真新しいリクルートスーツに身を包み、ロ々に愚痴をこぼし合っている。しばし彼女たちの話に聞き耳を立てているうち、ふとよからぬアイディアが浮かんだ。
で、その「よからぬアイディア」の中身だが街ゆく就活学生を捕まえて、大手企業の人事部長を名乗るってのどうだろう。我が社に入る気はないかとか何とか、オイシイことばでさせたあげく、それらしい口実を作って金を巻きあげるのだ。
詐欺としてはいかにもベタで、ウサン臭いことこの上ない。が、しかし相手は就職先がなかなか決まらず、ワラをも掴みたい心境の大学生である。中には、思わぬ幸運が転がり込んできたと目の色を変えて、飛びつく者もいるのでは?
ただし、男子学生への接触は止めておこう。万が一ウソがバレたとき、その場で取り押さえられちゃかなわん。
数日後、高級スーツを着込んで、都心のオフィス街へ出向いた。リクルートスーツ姿の女子学生に優しく声をかけること3人目で、さっそく好反応が。 
「就活中の学生さん?私、こういう者なんだけど」
手渡したスピード名刺の肩書きは「○○株式会社人事センター統括部長」
スピード名刺にどれだけの説得力があるのか、やや不安もあったが、 
「○○の人事部長さん?え、ウソ。なんで?」
日ごろ名刺交換する習慣のない学生など、案外こんなもんなのかもしれん。
「え、私が○○に入れるんですか?」
世界に名だたる大企業の名刺を食い入るように見つめながら、彼女が言う。
「スカウトってことですか?」
「そう。ウチの会社には、一般の入社試験の他に、人事部長が独自に新入社員候補を選ぶ特別枠ってのがあってね」
「はぁ」
「私くらいのキャリアになると、顔つきを見るだけでその人の適正がわかるんだな。だから街でこれはって人に出会うと声をかけてるんだ。アナ夕のようにね。キミ結構リーダーシップとかある方でしょう?」
「どちらかといえば」
「うんうん、だったら企画畑が向いてるなあ」
占いと同じで、当たり障りのないことを言っておけば、相手はそれを都合よく解釈する。詐欺師の常套手段だ。
マインドコントロールは順調に進んだ。社会人としての心構えのあれやこれやを、彼女はありがたく拝聴している。では仕上げといこう。
「では3 日後に名刺の番号に電話もらえるかな?アナ夕さえ良ければぜひ我が社に来てほしいんだ」
「はい、必ず」
「それとね、ちよっと申し訳ないんだけど、2 万円ほど貸してくれないかな?恥ずかしい話、財布と家の鍵を預けていた秘書が急な出張で仙台に行っちやってね。明後日まで帰ってこないんだよ」
ここが運命の分かれ道。怪しすぎる申し出を彼女は信じるか否か。
「2万じや足らないんじやないですか?3万くらいならお貸しできますよ」
以後、おれは同様の手口で次々といたいけな女子学生から現金をだまし取った。
さすがに慶応、早稲田などの高学歴者はすぐに怪しんで逃げていくが、三流私大の学生ともなると赤子の手をひねるようなものだ。
「特別枠の新入社員としてエントリーするには、登録に2万円かかるんだ」
「お金が必要なんですか?」
「いや、あくまでもこれはデポジットだから。正式に入社が決まればお返しするよ」
「なるほど、わかりました」
金を支払わせるための口実は何だっていい。そもそもあり得ない話に身を乗りだすような連中のこと、一見もっともらしい理屈をいえば、簡単に信じ込んだ。