防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

マリーナに浮かぶ無防備なお宝?小型ボートの船外機がレンチだけで盗まれている

小さな建築会社でとび職人として働く俺は、去年、会社から遠方県への出張を命じられた。同業者が数多く集まる大規模な現場で1カ月、泊まり込みで足場を組むことになったのだ。
出張組は俺の他にあと2名いる。リーダー格のAさん(35)と先輩Bさん(31)だ。どちらも地元ヤクザと親しいコワモテで、そんな連中と1カ月も寝食を共にするなんて罰ゲームそのものだ。が、ヨソの会社から移籍してきて間もない新人の俺に、出張を断る勇気などあるわけがない。とびの世界というのは、さほどに上下関係がうるさいのだ。
出張期間中の暮らしは、毎日、ほとんど同じパターンの繰り返しだった。
朝8時から夕方5時まで現場で汗を流し、宿舎でメシを食ってから閉店間際までパチンコを打つ。ちなみに俺はギャンブルにまったく興味はないが、AB両先輩がパチンコに目がないため、半ば無理やり付き合わされていたのだ。出張が始まって1週間が過ぎたころ、晩メシを食いながら先輩たちがボヤキだした。
「あー、俺もうそろそろカネが底つきそうだわ」
「俺もっスよ。全財産5千円しかねえし」
毎日、日給以上の額をバカスカとパチンコに飲まれてるんだから当然の結果だ。しかし、これに懲りてパチンコは控えようってな話にはならなかった。
Aさんが言う。
「この辺って、漁港とかマリーナあるよな」
Bさんがうなずく。
「海辺の町だし、フツーにありますよ。久々にやっちゃいます?」
両人が俺を見た。
「今から軍資金を作るから、オメーも手伝えよ」
「あ、はい」
嫌な予感しかしないんだけど…。その日の深夜、宿舎を抜け出した俺たちは、会社のワゴン車に乗り込んだ。やってきたのは人気のないマリーナだ。
車を降りた先輩たちは、桟橋に係留されたたくさんの小型ボートを落ち着きなく眺めている。おそるおそる俺は尋ねた。
「…あの、いまから何やるんすか?」
「ん?ああ、船外機をパクるんだよ」
船外機とはボートを推進するためのエンジン部分のことで、そいつを船から取り外し、専門の買取業者に中古品として転売するのだという。
「海岸線の町にはそういう業者がよくあるから、売り先には困らないんだよな」
売り値はモノの状態によって変わるが、小型ボートに広く使われているヤマハ製の9・9馬力クラスなら1台6万前後で買い取ってくれるらしい。説明書やその他の備品が揃っていなくてもだ。
話を聞きながらタメ息がこぼれた。やはりこの人ら、犯罪をやらかす気だったんだ。はあ〜。 その気持ちが露骨に顔に出たのだろう。Aさんがキッとこちらを睨む。
「盗みに加わりたくないなら見張りだけしといてくれればいいよ。その代わり、カネが出来てもオマエの分け前はねえぞ。それでいいな?」
もちろんだ。誰がそんな危ない橋を渡りたいものか。にしても、この2人、船外機なんかどうやって取り外すつもりだろう。専門工具なんか持ってないハズだけど。 
心配は不要だった。狙いをつけたボートに乗り込むや、2人はレンチで船外機のボルトを回し、あっけなく船から取り外して車に積んでしまったのだ。こんな簡単にパクれちゃうもんなの!?
Bさんがニヤニヤ言う。
「船のオーナーって不用心なヤツがめちゃくちゃ多いんだよ。盗難防止の特殊なボルトとか全然使わないんだもんな。船外機が盗まれるとか夢にも思ってないんだろうけど」
こうして1カ月の出張中、先輩たちはマリーナや漁港に都合3度も出向き、パクった5台の船外機から約25万のカネをやすやすと調達したのだった。
ABの2人が悪人なのはもちろんだが、船オーナーの連中も、あそこまで無防備なのはちょっとどうかと思う。まるでドロボウに持っていけと言わんばかりではないか。泣きを見る前に、一刻もはやく防犯対策をとるべきだろう。