防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

裏口入学・替え玉受験で合格することは可能なのか

大学受験だけでなく自動車免許の試験の際や国家試験などの試験でも発覚している受験者以外の者が受験者本人になりすまして試験を受ける替え玉受験は可能なのか。

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大きな大理石のテーブルがある応接間で、大げさなジェスチャーとともに頭を下げるのは不動産業でのしあがったパンチパーマのオヤジと、社長夫人というより場末のスナックのママさんがお似合いのお袋さん。典型的な成金だ。よっぽど1人息子が可愛いのか、
「もし合格させてくれたら倍の報酬をやる」と法外な提案を持ち出した。
それでなくとも時給5千円で週に3回、3時間。月に18万の条件は破格なのに、18万×6カ月分の約100万の成功報酬とは。合格させたご褒美はよくある話だが、多くてもせいぜい20万。こんな謝礼は聞いたことがない。「全力を尽くします」気つくと僕はそう言っていた。
「平安時代ってさ、確か徳川幕府の前だったよね」
僕は月・水・金曜の午後5時から不動産屋の家に通い、長男・マサオに私立文系の受験科目である英語・国語・社会(日本史)を教えることになった。
初日に、まず実力を把握しようと基本的なドリルを渡すと、ほとんど解けない。
聞けば三流と言われる高校を卒業した彼は、現役時代に8校受験し惨敗。一念発起して4月から予備校に通うも、授業についていけず落ちこぼれたらしい。
「え、オレの偏差値?平均すれば40ってとこかな。でも45ってときもあったよ。
「アヘヘヘ」
はっきり言えば、こんなヤツが大学を受けること自体、間違いってもんだろう。
「だから、英文の構成ってのはS十V+Oが基本で…」
いくら僕が腕のいい家庭教師でも、高校受験じゃないんだから夏休みに中学1年の復習をしているようじゃ、いつになったら受験問題に辿りつくやら。
かといって、「問題を読む前に答を見て、出題者の意図を読みとって消去法で消していくこなんて受験テクニックを詰め込もうとしても、彼には文章を読解する力がない。万事きゅうすである。受験に「絶対受かる」はないが「絶対落ちる」は現存するのだ。
100万の成功報酬が期待できないと判断した僕は、週に3日もマサオに付き合うのにウンザリし代わりの人間を探すことにした。あんなアホに教えるくいらいなら、額は少なくてもマトモな謝礼をもらえそうなヤツを教えた方がいい。
第1週。誰にこのお荷物を譲ればいいか考えながら「どこがわからないのか、わかんなぁ〜い」的発言を連発するバカに高校受験の問題集を解かせている最中だった。
「オレの代わりに先生が受けてくれたら僕の替え玉受験体験記ラクチンなのになぁ」
マサオが何げにつぶやいた。ホントにそうだよ。オマエに教えるくらいなら自分で受験した方がどんなに簡単か。
そうか、その手があったぞ僕は思わず心の中で手を叩いた。マサオには「バカなこと言ってないでこれやれ」と宿題をたんまり出してゴマカシたが、家に帰ってからも彼のことばが頭を離れない。
調べてみると、替え玉受験が発覚しても、有印私文書偽造および同行使の罪に問われるだけで初犯なら執行猶予は確実。
どうせ卒業しても就職する気などさらさらないから、失うものなどない。それより大学や世の中の常識をプチ壊してやりたいという、あまのじゃくな自分が頭をもたげ始めたのだ。
腹が決まったところで、過去の「替え玉受験事件」をチェックしてみる。と、
顔写真がキーポイントであることがわかった。たいていどの大学でも、入学するまでに何枚かの写真の提出を求める。これがどのように利用されるかが問題だ。
もちろん、僕とマサオがソックリな顔なら替え玉し放題だが、幸か不幸か2人はまったく別系統の顔。誰がどう見ても間違えそうにはない。
では、どこかに穴があるだろうか。
例えばK大の場合受験生は出願からK大生になるまでの間、3回にわたり計5枚の写真提出を求められる。
ます出願時に2枚の写真が必要で、1枚は大学が受験生の原票として保管し、もう1枚は受験当日の本人確認用となる。試験会場で監督官がいちいち受験生の顔と見比べて回るのは、これと照らし合わせているわけだ。そして試験を突破し合格すると、さらに2枚の写真がいる。住所、出身学校、家族構成などを記録する原簿」に添付する1枚と、学生部が保管する原簿を簡略した書類用で、最後の1枚は、入学式を終えた後、学生証に貼るための写真である。

普通、受験生は、出願時に撮った証明写真を焼き増しして5枚とも同一の写真を用いることが多い。が、規定をよく読むと、出願時の2枚と、さらに学生原簿と学生部保管用の2枚は「同じ写真であ
ること」と指定されているが、全部が同一である必要はないのだ。
替え玉受験のカギは、ここに隠されているようだ。単校側がこれほどの受験生の顔写真を求めるのは、替え玉受験を含め、本人確認を徹底して行おうと思っているからに他ならない。では、実際にこれらの写真と受験生は、いつ、どのような形で照合されているのだろうか。
まず、提出する2枚の写真だがこれは直接、試験会場で試験を受ける本人の顔と見比べられる。何度も言うように僕とマサオは別系統の顔だから、マサオの写真を使ったのでは即バレ、かといってどちらにも見えるよう合成した写真を提出するのもダメ。受験書類の写真規定は非常に厳しく、スピード写真や使い捨てカメラでのスナップ撮影は不許可で写真屋で撮影した証明写真のみがパスできる。よって、合成写真など提出すればそれだけでアウトになってしまう。
では合格後、単生原簿に貼付される写真はどう使われるか。
実はこれがあいまいで、僕の在学期間、学生原簿の写真と自分を見比べられた覚えはない。だがへ単位を落としたり呼び出しをくらうなど不測の事態では原簿が出てくるわけで、出来の悪いマサオの場合は絶対、彼の写真でなければマズイ。
ということは、出願時の写真は僕の顔写真を使い、合格後の3枚はマサオの写真を提出する必要がある.これで、大学側が出願時の原簿と入学後の原簿を照合しなければ替え玉受験は成功する。
僕は入試。入学時期の大学側の動きをチェックしてみることにした。
考えてみれば大学にとって入試は一大イベントであるとともに最大の収入源。少子化が問題になっているとはいえ六大学となれば願書を送付してくる受験生の数は莫大なもので、K大の但裂ロは4〜5万人にものぼる。この大量の志願者を受け付け、選別し、合格者を登録するのだからへその事務量たるや半端じゃない。

K大学では毎年、朝日新聞で釦人の事務アルバイトを募集するが、それでも入試担当になった教授が1日値時間1週間丸々カンヅメ状態で採点するという逸話があるほどの忙しさである。そんな最中に「もしかしたら替え玉がいるかもしれない」というだけで写真を照合する作業を行っだろうか。手始めに過去の替え玉受験事件を調べてみた。

と、いきなりの大打撃。例の、なべやかんのM大替え玉受験は、学生証と受験票を照合したら別人の写真が使われていることが判明し事件が発覚したとあるではないか。いくらムダなことに見えても、大学側もやってるんだな。大学の事務局に就職したサークルの先輩に探りを入れてみる。すると実際に彼が入試担当を務めた2年の間には、宴具間の照合などやったことも聞いたこともないという。
「あの時期がどんな忙しいかオマエだって想像きるだろ。そんな面倒なことやるワケないじゃん。M大の場合はさ、OBとか職員がからんで前々から不穏なウワサがあったから調べたんじゃないの。M大だって今は学生証と受験票の写真照合なんてやってないと思うよ」
確かに当蒔の新聞を読み返してみると、替え玉受験のウワサが流れていたこと。その年の出願時の書類にスピード写真が入っていたことなどからへM大側が敏感に反応した様子が読みとれる。先輩の言うとおり、写真照合はあの年だけの特例だった可能性が高い。
念のため親しい助教授にも確認してみると、私立大学ってとこはコストに見合わない不合理なコトはやらないと断言する。
「出願時の書類と合格後の書類は別々に保管されるものだし、忙しくてそんな煩雑な仕事まで手がまわらないよ」
これだけ裏が取れれば間違いない。信じられないかもしれないが、少なくともK大や今の東大では写真の照合は行われていないと考えていいようだ。
「この間の話だけど…」
「なんだつけ、彼女の話?」
「いや替え玉受験のこと」
「ええっ、先生、本気?」
すっとんきょうな声をあげるマサオに向かって入試システムを解説。
「だから、絶対、成功するよ」
言うことの半分も理解してはいないと思うが、彼はもう合格したかのような喜びようだ。
「先生、それいいっすよ。絶対やろうよ・ママに言ってうんとお金出してもらうからさ」
ママか。僕としてはオヤジからガッポリ金をもらいたいところだが、マサオはどうやら母親にだけ打ち明けるつもりらしい。いつもバカ息子呼ばわりする父親にコンプレックスを持っているようで、
内緒で合格して見返したいという彼なりの魂胆があるようだ。
次の授業日、お母さんが休憩時間になるといつもより大きなケーキと紅茶を持って来た。
「マサオからすべでお聞きしました。先生のおっしゃることならきっと間違いないでしょう。ぜひともよろしくお願いします」
親バカとはまさにこのことだっ。息子が犯罪に足を踏み入れようとしているのに、止めるどころか自ら頭を下げて依頼するのだから。ま、そっちがその気なら望むところだ。
その後の話し合いで、合格した際は父親の約束した成功報酬とは別に100万をもつということで合意した。
過去の替え玉事件が、3千万だ2千万だと報じてあるのを見ると安い気もしたが、専業主婦が夫に内緒で出せる金額としては、このぐらいが限度だろう。僕も金をもらいたいのは山々だが、自分が計画したことを実行してスリルを味わってみたい気持ちが大きいので、それでよしとした。額が小さいことで違法行為を行うコトへの罪悪感が減るという心理が働いていたのかもしれない。
その日から、先生と生徒の立場が逆転した。家庭教師の時間は僕が机に向かって問題を解き、マサオが解答集を見ながら採点する。
「先生すげえよ。これなら絶対合格間違いなしだよ」
僕の解答用紙を見ながら、いつもマサオは大げさな声を上げる。しかしこんなのは当たり前だ。大学院を受けるためには英・仏・独語ぐらいは読み書きできなくちゃならないし、社会は専門。M大の
試験問題ぐらいヘでもない。おまけに塾の講師もしていたから、問題を見ただけで出題者の意図は見当がつく。実際のとこ、試験に受かるかなんて心配は、正直一度もしなかった。
けど、元々勉強が好きな方だから一度やり出すと止まらない。M大はもちろん、K大の過去間まで解いてマサオに採点させた。当然、ほぼ満点の出来だ。
「先生、せっかくだからK大を第一志望にしようよ」
ほぼ満点の解答用紙を見て、偏差値40台のマサオが図々しくもそんなことを言い出した。M大合格でも高校時代を知ってる友だちから不思議がられるだろうに、滅多に合格者が出ないK大となれば怪しまれる可能性は大。
しかし例え「あいつが受かるのは絶対におかしい」と不審がられたところで、入学してしまえばこっちのもの。まぐれだ、奇跡だ、が通用するのが入試なのだから。
予備校さえ落ちこぼれたマサオがK大に入るという、バカバカしい計画に、僕は大いにやる気になってしまった。4年前、自分が使った受験参考書をわざわざ実家から送ってもらい、本格的に取り組んだ。おまけに、会場の雰囲気に慣れるため予備校主催の模試を受けたりもした。受験生に僕が交じるのだから浮くかと思ったが、そんなことを気にしてるのは自分だけ。誰も他人のことにかまってるヒマなどない様子。これなら入試本番も間題なさそうだ。
もちろん、結果はM大もK大もA判定(合格間違いなし)。なんと、受験生のときより学力が上がっていたのにはビックリ。偏差値は70だった。そんなことより、この替え玉受験計画でいちばんつらかったのはダイエットだ。先輩や助教授の証言から成功する自信はあったものの、万が一ということもある。今年からシステムを変更し、出願時と入堂後の写真の照合を始めるとも限らない。
そのため気休めとは思ったが、少しでもゴマカシが効くように外見をマサオに近つけようと心がけたのだ。
マサオに服やメガネを借りて日ごろからファッションを身につけることにした。もちろん、一緒に美容院に行き「同じ髪型にしてください」とカットまでしてもらう入れようだ。
きっと、あの美容院の連中は、僕たちのことをホモカップルと思ったろう。
しかしそこまでしても僕とマサオは同一人物には見えっこない。そう、体格があまりに違っのだ。175センチで80キロの僕に比べ、マサオはあばら骨が浮き出るほどの痩せっぽっち。身長こそ170あるものの、たったの60キロしかない。「受験勉強しなくていいんだからもっと食べて太れよ」とハッパをかけても、体質なのだ。どうしても60キロ以上にはならない。
となれば僕がヤツに近つくしかないじゃないか。大好きな酒を控え、夜8時以降は飲食しないことにする。それだけでも情けないのに、仕舞いにはジョギングまでした。
冬の寒い夜道を、白い息を吐きながら毎日4キロ。なんでこんなことまでやってるんだと思いながらも、70キロまで痩せた。
だが、出願用の写真を撮りに行ってハタと気ついた。どうせ顔しか写らないのだから、太ってても痩せてても大した違いはなかったのである。年が明けて入試時期がやってきた。僕が受験するのは、マサオのM大商学部と、K大の商学へ経済単部。
「先生だけにやらせるのも悪いからと、ヤツも自分の力に見合ったところを受けると言い出した。試験を受けるにも金がかかるのだから、その分、僕にくれと言いたかったが、柏年生きてきた中で初めて見せたやる気に免じ、勝手に受けさせる。
入試のスケジュールは、2月に入って最初にM大、次にK大商学部、しかしその前に僕の進路を決める大学院の進学試験が待っていた。大学院の試験科目は、フランス語、それに社会学の専門科目と論文だ。常日頃から授業に出てる僕にはなんてことないモノである。そんな簡単なことかよという突っ込みが聞こえてきそうだが、それぐらい自信がなかったらそもそも替え玉でK大を受けようとは思わない。丸々2日かけた試験に当然のように万全の体勢で入試本番に突入した。
最初はM大である。マサオが朝早くからモーニングコールをかけてきたが、あまりにも早すぎたため二度寝してしまい年下のバイトに「こんな大事な日に遅れるなんて」ととがめられムカついたが、ギリギリセーフで試験会場へ。あと5分でも遅かったら締め出しを食らうとこだった。
1時間目は苦手な国語だ。受験票を机に置き、まずマサオの名前を記入する。
ざっと見渡すと、苦手と言っても楽勝レベル。問題を全部読まなくても見当はついた。
そんなことより、見回りの学生が気になって仕方ない。臨時バイトらしい真面目そうな男子が、原簿と受験生1人1人の顔をバカ丁寧に見比べて回っている。出願時に提出したのは2枚とも僕の写
真なんだからバレるはずなどないが、顔をのぞき込まれたときにはさすがにドキっとした。この僕にも多少の罪悪感があったらしい。
しかし、それも最初のウチだけ。2時間目の社会、3時間目の英語ともなればすっかりマイペースを取り戻し、自分から監督官にニッコリ笑顔で挨拶までしてた。もちろん試験の出釆は上々で、キャ
ンパスを出たところでマサオに「合格間違いなし」の報告を入れる。
その3日後が本命のK大商学部。替え玉受験も2度目ともなれば慣れたもんで、開始30分で解答もしかも我ながらビックリするほどの出来で、自己採点してみても数学は満点。国語、英語も9割は固い。
「マジで偏差値40のオマエがK大商学部にトップ入学だぞ」
僕が冷やかすと、ヤシは殊勝にも「先生、経済は受けないでくれよ。俺、商学部で十分幸せだよ」と言い出した。
確かに経済は僕が通ってる学部だから、顔見知りの教授が試験官を担当している可能性もある。無用なリスクは避けよう。
1週間後の合格発表は幸福を味わいたいからと、どちらもマサオが母親と見に行った。もちろん、M大もK大も合格だ。
ちなみに、K大という難関をパスしたマサオが、自分で受けた滑り止めの数校にカスリもしなかったことをとがめる連中はいなかった。マサオがK大への入学手続きを行った日、彼の家でささやかな祝勝会が開かれた。さすがに母親は含みのある笑顔で迎えてくれたが、父親の浮かれようたるやつじゃない。
「やっぱりコイツは俺の息子だけのことはある。デキが違うよ。最初は出遅れたけど最後はマクリ一発。たいしたもんだ。なぁ、先生」
同意を求められても答えようなどないが、オヤジはマサオを見ては目をうるうるさせている。そんな父親を見て、満足げに微笑んでいるヤツが情けない。
約束の成功報酬を僕に渡すと、コップ酒に酔ったオヤジはとっとと奥の部屋に引き上げてしまった。そのスキに、3人で心からの祝杯を交わす、お母さんが「お約束のもの、収めてください」と、厚みのある封筒をくれた。
トイレでこっそり中を確認すると、約束の100万に110万がプラスされていた。が、僕の替え玉受験代、合計210万は、ヨーロッパ旅行に行ったりしてるうち、あっという間に消え失せた。
マサオは誰に怪しまれることもなく、無事にK大に晴れて僕の後輩となった。ただし、受験票原簿がいつ処分されるのか裏が取れす、しかもいつ何どき写真の照合が行われるか気が気じゃないようで、4月5月は毎日のように僕のところへ電話をかけてきた。
「先生、今日、学生証を作ったんだ」
「受講科目の登録をしたよ」
いちいち報告しなくてもいいと思うが、彼はいつ替え玉がバレないか冷や冷やしてたようだ。クラスの子たちとも一定の距離をおき、コンパにも顔を出さず家と学校の往復だけ。
が、それも5月までのこと。もうバレることはないと腹をくくったのか、6月に入るころにはオールラウンドサークルに入り、持ち前の明るさを取り戻したようだ。
僕としてもマサオからの定期報告がなくなり、やっと肩の荷を下ろせたような気がした。
あれから数年マサオは現在、2回目の4年生を謳歌しているが、聞くところによればオヤジのコネか、某一部上場企業に内定が決まったらしい。
「先生、オレの友だちの弟が今度受験でさ、300万出すからK大生にしてほしいって言ってるんだけど」
先日、久々にマサオから連絡が来たと思ったら、そんな依頼だった。300万か。キャリアを積んだ僕には魅力のない額だが、もし1千万出すなら…。もうそろそろ返事が来てもいい時間だ。