防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

企業秘密の情報漏洩・究極の社内犯罪、産業スパイの実態

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情報漏洩対策のプ口が明かす産業スパイの実態

例えば、飲料水メーカー「x」が新しいドリンクを開発した。と、なぜか時を同じくして競合他社から似たような商品が続々と発売される。人気タレントを起用したコマーシャル合戦となり、世間ではちよっとしたブームにまで発展…。まるで各社が口裏を合わせたかのようなこの現象は何を意味するのか。考えられる答えはひとつ、新製品開発情報が外部に漏洩していたのだ。

むろん、その裏で内部情報密告者(ィンフォーマー)が暗躍していることは言うまでもない。俗に《産業スパイ》と呼ばれるものだ。
FBIによると米国企木が産業スパイ対策にかける資金は年間240億11千億ドルにも及ぶといつ。日本の場合はどうか。これほどの経済大国なら、各企業とも相当の額を情報流出防止のために費やしているはずだ。ところが、現実は逆。

「日本企業の情報管理なんてザルですね。はっきりいってこれほどスパイがやりやす!先進国も珍しいですよ」

そう話すのは、企業を対象に情報漏洩のコンサルタントをしている松掛氏(37才・仮名)だ。企業秘密を対価に甘い汁をすする者と互角に渡り合ってきた男に究極の社内犯罪産業スパイの実態について聞いた。
盗聴器が仕掛けられていた
ひとくちにスパイといっても開発プロジェクトばかリがターゲットとは限らない。経営状況、顧客取引先、果てはリストラ対象者の割り出しにいたるまであらゆるものが対象となっている。

ただ、多くの会社員はこう思っているはずだ。スパイ行為が行われるなど大企業に限った話。ウチみたいな中小には無縁の世界だよ、と。しかし、氏はその認識の甘さこそ産業スパイをのさばらせる最大の原因であると指摘する。

「イメージと違うかもしれませんがスパイは大企業より中小企業の方に多く存在しているんです。しかも、経営を揺るがしかねない深刻な打撃を与えているから恐ろしい。大企業が情報漏洩でー千万円損失しても立ち直ることはできますが、中小にはかなりの痛手でしょ」

どうやら我々の想像以上にスパイは身近に存在しているらしい。が、実際問題会社でそんな怪しい輩、見たことも聞いたこともない。いったい、どこに潜んでいるというのか。

「スパイを本業としている人間なんていません。稀に企業調査の依頼を受けた探偵が社員として潜り込みますけど、ほとんどが弱みを握られたり、金を掴まされた内部の社員やパートですね」

具体例を示そう。4月、氏のもとに東日本ではそこそこに名が通ったエステチェーン「v」の女性社長から直々に依頼が入った。

「普通は管理職クラス、特に総務系の人間から相談を受けるのが定石ですが、よほど事態が深刻だったんでしょうね。聞けば、顧客データや工ステで使用する新製品を何者かが外部に漏洩している恐れがあるというんです」

日進月歩するエステ業界ではどんな製品や技術を使用しているかが勝負の分かれ目。情報漏れはそれこそ死活問題だ。

「調査の結果、製品サンプルが盗まれていたほか、会議室などにコンセント型の盗聴機が仕掛けられているのが判明しました。損失を被る前にスパイを捕えるのが先決です」氏が最初に取り組んだのが、主だった役職者の身上書に目を通すなどして、社内の人間関係を把握することだった。

「企業をスパイするのもスパイを捕まえるのも同じですが、まずは派閥ってヤツを理解しなくちゃいけない。このときは楽勝でしたよ。エステみたいな女社会の方はドロド口として、噂話が大好きですからね」

対象者それぞれがスパイできそうなホストか否か。日頃から不審な行動をとっていないか。そして何より、社長や会社に対して不満を抱いていないか。氏は条件を満たす数人をピックアップすると、専属スタッフらと彼らの行動をマークし始めた。

氏の読みは当たった。狙いを付けた女性店長が休日にホテルのラウンジで他の店長と密会したのだ。不審な動きを見せる女性店長をビデオに目星はついた。次は動かぬ証拠をつかんで、彼女らの黒幕を突きとめねばならない。氏はここで全員に盗聴機を仕掛けるという大胆な行動に出る。

「やられたらやり返す、ですよ。自宅から店舗の電話までとにかく付けまくりました。店は社長から鍵を貰って深夜に忍び込み、自宅には電話回線のヒューズボックス型をこっそり取りつける。普通、マンションなんかは建物の外に設置されているんですが、一軒家の場合はわざわざ電柱によじのぼったりしてね。ちょっと話はそれますが、盗聴機はー個仕掛けてなんぼなんです。そういう意味ではかなりおいしかったですね」

こうしたモニターと呼ばれる内偵を続けることー週間。なかなか決定的な糸口をつかめずにいたとき、思わぬ事態が起きる。盗聴機が相手にバレてしまったのだ。

「慌てて、自宅の張り込みへ作戦を変更しました。アチラも必死で犯人探しをしているはずですからへタなことはできない。こういうときは先に動いた方が負け。ガマン比べですね」

2カ月も過ぎようとした頃に、その均衡は崩れた。ターゲットのー人、渡辺香(26才・仮名)という店長が深夜、車で本社に出かけたのだ。30分後、エステ製品を積め込んだ紙袋を抱えて出てきた彼女は、その姿がビデオカメラに収められているとは夢にも思わなかっただろう。
これ以上の証拠も見せてやろうか?
だが、これだけでスパイ行為を追及する証拠とするには不十分。単なる商品の横領で香を詰間しても、首謀者まで引きずりだすことは困難だ。

「かといって、これ以上モニターをしても結果は望めそうもない。そこでイチかバチかの賭けに出たんです。そう、彼女にビデオを見せたんです」

一部始終を見せられた香は明らかにウ口たえていた。その様子を黙ったまま注目する氏。ビデオが終わっても沈黙は続く。重苦しい雰囲気に耐え切れなくなったのか、彼女の目に涙が浮かぶ。と、ここでようやく氏が口を開いた。

「これ以上の証拠も見せてやろうか?」ハッタリである。しかしスパイとはいえ平凡な20代女性と、海千山千の人間を相手にしてきた男では役者が違った。

「人を自白させるには揺さぶりをかけるのが一番効果的なんです。ガンガン責めたてられると思っていたのに黙っていられたらビビリますよね。それでこのハッタリでしょ。トドメに誰の命令か吐けば減給ぐらいで済むようにしてやる、なんて優しい言葉をかけるやコロッですよ」

果たして、香はあっさりと落ち、泣きながら黒幕の名前を口にした。

「驚きました。社長の妹だったんです。彼女は名目上役員ですが実質的に権限はゼ口。その裏で、全国展開している某エステチェーンと結託して独立を企んでいたんですよ」
側近や幹部の裏切りは珍しくないが、身内とは予想外の結末である。これは後でわかるのだが、社長と妹は異母姉妹で非常に険悪な関係にあったらしい。姉の会社を傾けようという私怨が込められていたようだ。

ー力月後。妹は役員を解任され、現金十数万を見返りに手先として情報収集にあたっていた8名も全員解雇。当然、中には香も含まれている。組織として裏切り者への制裁は全社員へ見せしめの意味も込められているのだ。

この不況下にもかかわらず事業を拡大、経営も順風満帆だという。一方、氏も企業相手に情報漏洩の重要さを説く多忙な日々を送っている。

「こんな時代ですからね。いつスパイされる側からスパイする側になっても不思議じやありませんよ」