防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

駆除と称した詐欺まがいの悪徳シロアリ業者のインチキに要注意

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突然だが、皆さんはシロアリの怖さをご存じだろうか。家を食い荒らす害虫で、放っておけば柱や梁が空洞と化し倒壊に至るケースまである。万が一、被害を受けたら、早いうちにしかるべき処置が必要だ。ただし、駆除と称した詐欺まがいの業者が暗躍してるので要注意。そんな輩が

「無料で診断しましょ」

なんて話を持ちかけてきても、決して口車に乗うてはいけない。悪徳シロアリ業者A社の手口を公開しよう。

1枚4千円の布団が10万で飛ぶように売れる
コネもノウハウもなく、いきなりシロアリ業を始める人間は俺の知る限りいない。皆、何かしらのつながりでこの世界に足を踏み入れる。俺の場合は19才で初めて就職した布団販売社がそもそものきっかけだ。大阪のバッタ屋から仕入れた安物の羽毛布団を10万円で売りつけるトンデモない会社なのに、苦情もなく商品が飛ぶように売れていた。

理由はひとつ。俺がいた会社は、聞けは誰もが知っている農家を対象とした全国組織の某組合の指定業者だったのだ。

「よそは綿を混ぜてパンパンに膨らませてるんですが、うちのを見てください。絹のように薄くて暖かいでしょ。おまけにフワフワ羽毛が飛んで部屋を汚すこともないんですよ」

1枚4千円のせんべい布団に飛ぶほど羽毛など入うてるワケがない。触ればわかりそうなものなのに、業者への信頼は厚く、そんな疑問さえ頭に浮かばないようだ。仕事はラクで、仲間は気のいいヤツラばかり。これ以上ない職場だったが、実家暮らしの俺に意欲は皆無。1年も保たずに辞めた。

プーを決め込んだ俺が再び求職情報に目を通すのは今年の春、オヤジが定年退職してからだ。なんかいい仕事はねえかなと、部屋で行政の広報誌をめくうているうち、見覚えのある顔が飛び込んできた。布団販売のとき組合側の担当だうた高野さん(仮名)だ。みなさまに安心できる食料の提供と生活の安定をめざしていきたいと・なにスカシたこと言うてんだ。うちの社長にたかって、風俗ばっか行うてたクセによお。昔のことを思い出しながら、記事を読んで驚いた。

5年の間に高野さんは、理事長になうていたのだ。マジかよ、と思うた瞬間、俺は次の仕事と思いついた。

〈1割バックでいかがです〉〈月末に手渡しで頼む〉

都市部にお住まいの方々はご存じないだろうが、農村部における組合の影響力はいまだ絶大である。農産物の販売から不動産、保険、預貯金、借金、果ては旅行や日用雑貨に至るまで、生活全般が組合へ依存しているというても過言じゃない。

しかも統廃合を繰り返した結果、高野さんが理事長を務める地元組合の会員数は2万人を数えるらしい。こんな巨大マーケットを見逃すのはバカ野郎だ。けど、布団を仕入れるルートはないし、まして農業機具や健康器具には手が出ない。何の販売がいいだろうと思案に暮れること1週問。「シロアリは儲かる」という先輩の言葉を思い出した。

本格的にやるには専門的知識が必要だが、駆除剤を撤くだけならシロウトで十分。実際、そうしたモグリ業者が掃いて捨てるほどいて、それなりに商売になるとのことだうた。地元周辺は大きな家を構えた農家が多いから、絶対に需要はある。

しかし、シロアリ駆除は怪しい商売の代名詞みたいなもんだから、飛び込み営業じゃ門前払いを食うのは必至だ。そこでモノをいうのが【指定業者】の肩書である。俺は決意するや組合に電話を入れ、高野さんと面談するアポイントを取り付けた。

約束当日、組合本部に出向き、理事長室の立派なソファで向かい合う

「あの頃はずいぶんお世話になりまして」

「柳川くんかあ。いゃあ、木当に懐かしいなあ。」

盛り上げるうち、しだいに以前の雰囲気が戻ってきた。

「組合員の皆様に、格安料金でシロアリ駆除サービスを提供したいと考えておりまして。つきましては組合の推薦をいただきたいのですが」

しゃべりながら、メモ用紙に素早く〈1割バックでいかがですか〉と書き付ける。俺だうたら接待されるより現金の方がいいもんな。高野さんもそうでしょ、と顔を覗き込めば、いかにも怪しそだ。

しまった。5年振りにいきなり現れ金儲けの片棒をかつげとお願いするのは虫がよすぎるもんな。せめて料理屋で一席設けて切り出すべきだうたんだ。仕方ない、今日のところはひとまずは引き揚げるとしよ、えと、席を立とうとする俺に高野さんが口を開いた。

「それは結構ですね。柳川くんの真面目な性格は存じてますから、ドンドン働いてください」

接待をねだっときと同じズルがしこそうな笑顔を浮ベメモ書きを手渡す。振込は困る。月末に手渡しで。よし、商談成立だ。
シロアリは、アリと名が付くもののゴキブリに近い昆虫で、驚異的な繁殖力で増え続ける。そのため、被虫場所に応じた適切な薬剤を使い、土壌対策も施す必要があり…

インターネットでシロアリの駆除法を調べると、専門用語が多くて半分も理解できない。先輩が言ってたとおり、ドシロウトが手を出せるのは詐欺まがい商法しかないようだ。でも、どうやりゃいいんだ。シロアリ業者事件をチェック。と、出てきたのは〈アリを持ち込んで被害を自作する〉手口だうた。

まさか、それじゃギャグじゃんというたんは思うたがこれほど確実な方法もない。アリをバラ撒いて見せつければ、誰だって駆除してほしいと思うはずだ。さうそく準備に取りかかうた。大手組合の指定業者が携帯電話1本じゃさすがに様にならないので、古い電話帳で休眠中の会社を探し名剛を拝借、電話秘書センターに登録する。
次に、中古の2トントラックを値切りに値切って8万で購入。18リットル用の噴霧器と発電機、オレンジ色のつなぎ、ヘルメットなどをホームセンターで揃える。さあ、残すは、シロアリの調達だけだ。確か、あそこにいたのがシロアリだったよな。

記憶を頼りに、海辺の防砂林に足を運んだ。去年、悪友と遊んだとき、羽の生えたアリを見たのだ。いや、実際にシロアリを見たことのある人間などそういやしない。それっぽい虫なら何でもOKだ。果たして、台風で倒れたらしい松には大量の羽アリがいた。去年より穴はひとまわり大きくなり、何百匹、何千匹がブンプンとうなりを上げている。ようしゃー、これで成功したも同然だ。俺は持参したフタ付きの試験管にめいうぱいアリを詰め込んだ。
あら、おたくは組合と関係あるの?
トラックに乗り込み、訪問を開始したのは6月下旬だ。俺は比較的、羽振りのいいイチゴ農家が集まる一帯に狙いを付けた。

「ごめんください」

まずは周辺でもひときわ敷地面積の広い家を訪問。

「はーい」と出てきたのは、50過ぎの主婦だうた。

「ただいまキャンペーン中でして、シロアリ駆除のサービスを行っております」「……」

笑顔を引う込め、機嫌悪そうな表情で黙り込む奥さん。明らかに不審がうている様子だ。

「無料ですので、診断だけでもいかがですか」

「でも、インチキな業者が多いうて話、聞くしねえ」

「そうなんです。被害が出てないのにバカ高い金を取うて回る連中がいるらしくて、私のとこも迷惑してるんですよ」

「おたくもそうじゃないの?」

「いえ、うちはこうして組合さんの推薦をいただいてますし・・」

でかでかと組合のロゴマークが入ったチラシを手渡す。

「あら、おたくは組合と関係があるの?」

「はい。この辺は初めてですが、よろしくお願いいたします」

「ふーん。じゃあ、診断だけでもお願いしようかしら。実は少し心配してたのよね」

組合に、ここまで効果があるとは予想以上だ。鬼のようだうた主婦の顔が現金なほど緩んでいる。が、ここからが本当の勝負。

「じゃあ、ちょうと見せてもらいます」

ヘルメットにヘッドランプ、マスクを着用し、秘密兵器のデジカメを持うて床下に潜り込む。狭くて移動するのも大変だが、これくらいは我慢我慢。手近なコンクリ製の土台に近寄ると、右足の靴下の中から木エ用の白いボンドを取り出し、垂直に10センチほど絞る。これに土をかぎ対れば、立派な蟻の通り道、蟻道の出来上がりだ。

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「あー、蟻道がありますよ」

外にいる奥さんに声をかけながらカメラに収める。そして左の靴下から試験管を取り出すと、中の羽アリをブチまけた。

「奥さーん、大変ですー蟻道の中にシロアリがいました。すぐに写真に撮ってお見せしますから」

元気に歩き回るアリたちの姿を撮影して外へ。不安そうな奥さんにデジカメの画面を見せながら、一気に契約に持ち込む。

「これが蟻道なんですよ。で、次が崩した中から出てきたシロアリです。チェックしたところ、まだ被害はないようですので、いまのうちに予防されておいた方がいいかもしれませんね。相場は坪1万ほどですが、うちは組合から指定をいただいてますんで、組合員さんは6千円で結構です」

「そうですか・・」

百聞は一見に如かず。奥さんは、自宅の床下を歩くシロアリ画像にショックを受けたようだ。疑う様子などこれっぽっちもない。ええと、この家は建坪55ってことは、坪6千円で33万。高野さんに3万3千円バックしても29万の儲けか。凄えな。
「え、そんなにするんですか」
主婦は、いうたんは駆除してほしいと口にしたものの、金額に渋り出した。

「奥さん、いまは高いと思うかも知れませんが、被害が出れば駆除剤の散布だけじゃ終わらないんですよ。かというて、うちもこれ以上安くするとヨソの会社から苦情が来るもんで…。

わかりました。今日は仕事はじめですし、30万に勉強させてもらいます。でも、他の人には内緒にしてくださいね」

脅しすかして20分。やうと主婦が、お願いしますと頭を下げた。

「では午後2時に参りますので、そのときに代金を頂戴したいのですが」

「あ、いいですよ、それで」

玄関のチャイムを鳴らしてわずか1時間あうさり契約をゲットした。

約束の午後2時、俺はトラックで主婦宅に乗り込んだ。何台から噴霧器と発電機を下ろし、『催涙弾にも対応』というガスマスクを装着。ブンプン派手な音を立てる発電機を回せば準備は完了だ。

「しばらくうるさくしますが、よろしくお願いします」

様子を見にきた主婦に挨拶すると、「あら、ずいぶん本格的なのね」と感心したように。狙いどおりの反応だ。シロウトを編すにはまず外見からと、必要以上に大げさな道具を集めた甲斐がある。

「シロアリ駆除は特殊な薬を使いますんで」

専門業者であることを強調し、おもむろに床下に潜り込む。あとは薬品を適当にやるだけ。いくら55坪あるとはいえ、作業は30分もかからない。これで30万は高すぎるよな。俺が客なら、絶対、文句のひとつも言いたくなる。仕方ない、もつちょつと撒いとくか。

CCD力メラのモニターを見せれば一発で契約成立
仕事の依頼は立て続けにやうてきた。翌朝、沢田家の両隣で契約がまとまうたかと思えば、午後にはうちもゼヒやうてほしいと別の主婦が俺を待ちかまえている始末だ。聞けば、沢田さんの奥さんは相当なおしゃべりで、井戸協会議のついでにゴキブリやネズミも出なくなうたと言いふらしてくれたらしい。お陰で6月の10日間だけで8軒と契約、120万を稼いだ。

勢いは7月に入っても止まらず、依頼が来るまま仕事をこなしていたら、なんと純益が500万円ーさほど営業をかけずとも、隣組長や班長など地域内で影響力か持つ家が契約すれば連鎖的にマうちもうちもと向こうからネギを背負うてくるのだ。

これだけ荒稼ぎし放題すれば、いつかクレームが出るものと覚悟していたが、驚いたことに1件もなし。反対に、お令状が届くのだから世の中ちょろい。おまけに組合も組合で、理事長が審査もなければ忠告を受けたこともない。全国規模での活動も多いから、もう少し管理が厳しいかと思うたが、かいかぶりだうたようだ。

もっとも、毎日2軒3軒とハシゴしていたら、身が持たない。狭い床下での作業は思うた以上にキツイのだ。おまけに最近の建物は、耐震性重視とかでやたら低く、這うてやつと入れる程度。そんな中で大量の薬を撤けば、シロアリより俺がくたばうちまう。

そこで、月・木曜を営業の日、火・水・金曜を作業日と決め、数より1軒当たりの単価を増やすことにした。例えば、俺がわざわざシロアリをバラ撤かなくても、すでに被害を受けてる場合も少なくない。そんなときは大エ見習を呼び、手数料を搾取する。

「かなり侵食が進んでますね。知り合いの業者に見積もり出させましょうか。補修したほうがいいですよ」

見習いに、会社のクズ材を持うてこさせれば費用もかからないから、利幅もでかい。ー軒で最低10万の儲けが出る。この他、床下ファンもおいしいアイテムだ。シロアリは湿気の多い場所を好むので、予防のためには乾燥がいちばん。そこでホームセンターで売うてる家庭用送風機を購入、特注モノとして販売するのである。

「奥さん、今回は駆除できましたけどこれからも予防をなさうたほうがいいですね。お宅でしたら、四隅にファンを取り付ければ防げますよ。定価は1台6万ですが、いまなら5万にしときます。ヨソの人には言わないでくださいね」

1台2千円のファンを4台取り付ければ、俺の懐にはさしひき19万2千円が転がり込むという寸法だ。