防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

保険金詐欺を行う保険鑑定人の手口

オレは今年で5年目になる保険調査員だ。正式には「損害保険登録鑑定人」といい、保険会社の出資による調査会社に勤務している。損保会社から要請があれば火災や災害の現場に出向き、被害状況を調べて損害額を算出するのがオレの仕事だ。決して儲かりはしない。が、オレは大いに気に入っている。この仕事、確実にかつ安全に保険金をパクれるのだ。

鑑定人という仕事が性分に合っていた

元々誰もが羨む某大手メーカーのエンジニアだったオレが、じめっとした職場の人間関係に耐えきれず退職したのは30のとき。工学知識を生かして鑑定人の資格を取得し、運よく現在の調査会社に潜り込んだ。給料もガクンと減り、依頼の電話が入れば例え夜中だろうが全国どこへでもソク出張しなければならない。転職当時はカミさんにずいぶん責められもした。

しかし、計らずもこの仕事はオレの性分に合っていた。何より、単独行動できるのが有り難い。見習い期間を経て、最初に担当したのは小さな洋服屋のボヤだった。現場に赴き水や衝撃にも強い工事現場用のカメラで写真を撮影、状況を事細かにメモる。

「売り物だけで300万の損害ですよ」

店主夫妻は言うが、それを鵜呑みにしてるようでは鑑定人は務まらない。確かに煙でいぶされた商品はキナ臭いにおいが染みつき使い物にならないだろうが、どれも流行遅れのものばかり。おまけに、タバコによる失火は明らかだ。(こりゃ、せいぜい200だな)さっそく会社に戻り保険金額を計算する。店の修理見積に、損害額を加えるのだが、問題は商品価値をどう見るかだ。

卸値が300万だったとしても、実勢価格は下がってるはず。これを『保険理論』に照らし合わせ、支払い妥当額を180万とはじき出す。

「これでどうでしょう」「よし、いいんじゃないか。初めてにしてはよくできたな」

報告書に目を通すや、見習い期間中、怒鳴りっ放しだった上司が手放しでねぎらってくれた。

以後、オレは他人の仕事を取ってまで働くようになる。完全固定給で、取り扱い件数が増えたからと言って実入りが多くなるわけではないが、仕事が面白くてしかたなかった。転機が訪れたのはいまから3年前、鑑定人になって2年目の夏だ。思えば仕事に慣れ、精神的なスキがあったのだろう。交通事故の調査で被害者の家を訪問すると、
強面の40がらみの男が現れた。金ピカの腕時計に開襟シャツから覗くごん太の金ネックレス。マトモな相手じゃないことは一目でわかった。

「あ、高野さんですか。私、××損保より調査に参りました坂下と申します。よろしくお願いいたします」

ビビリながら挨拶すると、男はギロリとした目でオレの頭のてっぺんからつま先までを、値踏みするようににらみ付けた。

「兄ちゃん、あんたサラリーマンだろ。バカっ正直にこんなことしてても儲からねえぞ。オレが儲けの方法教えたるわ。それにはもっと賢い考え方しないとな。例えば、オレは乗ってた車に追突された被害者だよ。そのオレは何を求めてる?被害相当の金。これは当たり前だ。けど、できればそれ以上欲しいと思うのが人情だよな」

そこで、高野は10万で済む修理代を、70万にしてくれないかときた。特殊な素材で内装した車だったと、オレにウソの報告書を出してくれと。

「これが200万300万ならキツイだろうが、70万ぽっちの金で保険会社がぐだぐだ言うわけない。そうだろ?」「ええ、でも…」

「70から修理代の10万を引いたら60万だ。ニセの見積を出してくれる修理工場に10。大変でしたと被害者に25。残りの器は、そのままあんたのもんだよ」「っー…」

「バレるわけないって」

結局オレは、クビをタテに振る。ちょうど2人目の子供が産まれたばかりで、25万の臨時収入は心底魅力的だった。翌日、高野が手配した見積書を付けて報告書を上げると、あっさり保険会社の審査を通過した。70万が支払われたのは、その数日後のことだ。
報告書に明記。「全焼。被害額3500万」

「兄ちゃん、ちょっと来てくれないか」

初めての保険金詐欺が成功して1カ月、再び高野から連絡が入った。また怪しい相談かと駆け付けたところ、焼け焦げたバラック家に案内された。

「これ、うまいコトならんか」

布団屋の倉庫が、ブレーカーの漏電で出火したらしい。だが見れば、屋根が少し残っている。

「扱いは半焼が妥当でしょうね」「全焼になんないか」「、・・…」

半焼を全焼にすれば、保険金の額は単純に倍は違う。高野の魂胆は極めてわかりやすいが、こればかりは修理代をごまかすのとケタが違う。バレたらクビどころか刑務所行きだ。
「できないこともないでしょうが、ボクが担当になるとは限りませんからねえ」

遠回しに断ったつもりだった。調査会社はーつじゃないし、うちに依頼がきたところで、仕事を割り振るのは所長の役目だ。いくらなんでも、そんな偶然があるはずはない。だが、そのまさかが翌日、現実となった。

「坂下くん、これ行ってくれ」

所長がそう言いながら手渡したのは、あの布団屋のデータだった。仕事を断れば、前回の件をネタに高野に脅されるのがオチだろう。覚悟を決めるしかない。オレは高野に連絡を入れ、鑑定に出向く。ニコニコ顔でオレを出迎えたヤッは、布団屋の主人に自慢そうに話した。

「オレがこの鑑定士にちゃんと頼んでやったから任せときな。あんたに損はさせないから」

どうやら布団屋と高野は、元々の知り合いというわけではないらしい。火事があったのを知り、勝手に高野が押しかけたようだ。まったく金の臭いに敏感なヤツだ。事情はどうあれ、オレはいかにも真っ当に見える鑑定を行わなければならない。ええと、建物の焼失分と商品の損害を合わせると、3500万ってとこか。けど、柱も屋根も残ってるから、普通ならいいとこ1000万だろうな。うーん、どうすればいいんだ。翌々日、オレは「全焼。被害額3500万」と明記した報告書を提出した。証拠の写真は、
すぐさま解体屋を手配し、倉庫が壊れてから撮ったものを添付。以前、保険会社の担当が、警察や消防に改めて確認を取ったりしないと言ってたのを思い出したからだ。果たして1カ月後、満額に近い3200万が支払われた。さっそく分け前をもらいにいくと、ヤツは布団屋に対し強い口調で言った。

「本当なら1千万だったのに、この人が頑張ってこれだけ取ってくれたんだ。あんたは2500万やろう。後の700はオレたちに返してくれ。いいか、変な考えを起こしたら、パクられるのはあんただからな」

そう言って布団屋から取り上げた700万の、つち、500を自分のカバンに詰め、残った200万をオレに手渡す。

「オレの紹介だし、兄ちゃんは査定を書いただけだから、それで十分だよな」

なんでいちばんリスクを背負ってるオレが200で、何もしてないあんたが500も取るんだよ。心で思っても口に出せるわけがない。ただ黙って領くオレだった。
あいにく、柱が残ってるんですよね

200万を前に、オレはしだいに神経がマヒしてきた。(報告書を細工するだけで、こんな大金が手に入るんだ。やらない手はないぞ)

高野の言うとおり、被害者に得はあってもデメリットはない。話を持ちかければ誰だって乗ってくるはず。鑑定現場で被害者に会うたび、頭の中はいつ切り出すか、そのことでいっぱいになった。が、万一、会社に告げ口されたらと思うと、どうしてもあと一歩が踏み出せない。そんなある日、ちょうど手頃な火事物件に出くわした。ほぼ丸焼けなのに、惜しいかな大黒柱が1本残っている。出火原因も不明で、消防も不審火ということで結論したらしい。

「やっと手に入れたマイホームで、住宅ローンもまだ20年残ってるんですよ。まったく車のローンもあるし、なんでこんなことになっちまったかな」

40代半ばらしい家の主人は、オレに向かってくどくどと愚痴り始めた。何でも機械メーカーのサラリーマンで、育ち盛りの子供が2人いるらしい。(やっぱり金に困ってるヤツの方が乗ってくるよな)オレは、ことばを選んで話を切り出した。

「それは大変ですねえ。お宅は3000万の火災保険に入ってますが、こうやって柱が残っちゃってるんで、半焼分しかでないんですよ。でも、それじゃあお気の毒で…わかりました。私がなんとか全焼扱いにしてみましょう。ただそれにはいろいろ根回しが必要なんで、多少、謝礼などの費用がかかるんですよ」

寝タバコや炊事中の出火など、被害者側に過失があれば減額されるが、このケースはほぽ満額3000万が出ておかしくない。オレは主人に、減額されても最低2800万は支払われるだろうから、100万をバックしてくれないかと言ってみた、すると、「はい、お願いします」

即座に頭を下げる相手を見て、200と言えばよかったと後悔した。ちなみに、このときの100万は1カ月もしないうちにオレの懐に入った。話を振った途端明るい顔になれば
しそれからは、やりたい放題だ。といっても、オレの鑑定だけいつも満額支払いでは、さすがに上司に怪しまれる。せいぜい10本につき1本の割に押さえることを心がけた。有り難いことに台風の当たり年で、北関東に飛んだかと思うと、すぐに今度は四国、九州の集中豪雨災害へと駆り出された。通常は、1日かけて現場で調査、翌日に報告書作成というのがペースなのに、広域災害の場合はそんな悠長なことはやってられない。ビジネスホテルに泊まり込み、会社から送られてくる契約者情報を頼りに、1日4件5件と掛け持ちする。水害は保険鑑定の中でも難しい部類だ。建物が倒れず残ってれば保険額はグンと減るが、だからといって水浸し、泥まみれの家にそのまま住めるわけではない。使い物になるかならないかの判断は鑑定士しだい。それこそオレの腕の見せどころでもある。慎重に物件を選び、これはと思う相手だったら、やんわり話を振ってみる。「…ということで半壊を全壊にすることもできるんですよ。ただ、これはお宅様がお気の毒で見てられないという私の気持ちなんで、ご近所の方々には内緒にしていただかないと大変困ったことになりまして」

相手の表情で判断はつく。暗かった顔がパーっと明るくなるようなら間違いはない。さっそく家を壊すなりして、実際の細工に入ればいい。
「おいオレだよ。覚えてるか。兄ちゃん元気か。まだ鑑定士やってんだろ」

久しぶりに高野から電話が入ったのは、今年の3月。1年でいちばん火事が多いのがこの時期である。頼みたいことがあるというヤツのことばに、イヤな予感がした。が、その反面、期待する気持ちがあったのも事実。言われるがまま、待ち合わせの料理屋にでかけると、そこには高野の他に地元の新聞でよく顔を見る市議会議員がいた。

「兄ちゃんも知ってるだろ、島田さん(仮名)。実はこの方は手広く商売もやっててね、郊外の●■電気ってデカイ店、あれもこの人がやってるんだ」
最近、●■電気の倉庫があるエリアで不審火が続いている。それを逆手に取り、倉庫を燃やして保険金をいただこ~つというのだ。

「どうせ燃やしちゃうんだから、新しい商品は店にでも運んで、中には二束三文の中古品を入れときゃいいんだ。兄ちゃんも1000万ぐらいは稼げるぞ」

1000万ー確かにおいしい話には違いないが、放火はあまりにヤバくないか。

「バカ。島田先生を甘く見るなよ。警察署長や消防署長とも懇意の仲だし、店が入ってる××火災保険には義理の弟さんがいる。鑑定士として、兄ちゃんを指名することもできるんだ」

なるほど。お膳立てはすべて整ってるから、黙ってニセの鑑定書を書けというわけか。だが、こんな危ない橋を渡る以上、確実に1000万は保証してもらわないと。

「それは兄ちゃんの腕次第だよ。店は億単位の保険に入ってるんだから、支払われる額が多くなりゃ、その分、兄ちゃんの取り分も増えるってわけ。じゃあ、また連絡するからな」

高野はそう言うと、出て行けとばかりに手を振る。つまり、最初から話は決まっており、オレに断る自由などないらしい。帰る道すがら、不吉な考えが頭をよぎった。まさか、失敗したら全部の罪をオレ1人に被せようというつもりじゃ・・・
3日後の深夜、何気なくつけたローカルニュースに焼け落ちた。電気の倉庫が映し出された。

「火の気がまったくなく、最近、この一帯で起こっている連続放火犯の仕業ではないかと見られています」

女性ァナウンサーが沈痛な表情でしゃべっている。どうやらウマくいったらしい。テレビで見る限り全焼に近いし、この分なら警察も不審火と認定するに違いない。高野の連絡を今か今かと待っていると、翌翌日の午後、所長に呼ばれた。

「××保険から、キミの手が空いてるようなら指名したいって言ってきたぞ。おまえ、何
か心当たりあるか」

「ああ、この前たまたま現場で顔を合わせたんで、またお願いしますって昼飯おごったんですよ。だからじゃないっすかね」

予め考えておいた口実を言うと、所長は納得したように倉庫のデータをくれた。さあ、いよいよこれからが本番だ。

高野に連絡を取り、一緒に倉庫の状況をチエックする。と、いまだ燃え残った家電製品から、鼻を突くようなツンとした刺激臭が立ち上っている。中に入り、店側に提出してもらった在庫表と照らし合わせようと試みるが、焼けただれた黒い塊があちこちに散乱し、確認のしようもない。

「これはまた、ハデに燃やしましたね」

「燃え残っちゃ大変だからな。ダンボールや緩衝材をバラまいといたら、ガンガン燃えてくれたよ」

なんと高野、連続犯を印象づけようと、昨夜も近くのゴミ集積場に火を付けたらしい。まったくやることが徹底している。

「損害額を出してみろよ」

高野に促され、電卓をはじく。ええと、建物は見積も出てることだし、1500万は妥当だろうな。次は商品の損害か。最新型ノートパソコンが100台に、デジタル対応テレビが50台ー在庫表に沿って計算すると、それだけで8000万は超えちまう。いくらなんでも吹っ掛け過ぎだろ。

「だから、兄ちゃんが査定表を上げりゃ保険会社はそのまま通すんだって。おかしいと思うのは兄ちゃんだけなんだ」

高野によれば、実際に倉庫に入っていたのは、バッタ屋やリサイクルショップでかき集めた500万円分の家電品らしい。満額は無理としても、9000万は下らないはずだから、実害の2000万を引いて利益は7000万。いったい、どういう配分になるのだろう。

「まあ、島田先生が3000で、オレが3000。兄ちゃんは1000ってとこかな」

★鑑定書を細工し始めて3年、保険金詐欺で稼いだ金はトータルで8000万近い。契約者にチェックの厳しい保険会社も、まさか鑑定人がこんな詐欺を働いているなんて、思ってもいないだろう。だからって、油断は禁物である。派手に使って怪しまれないよう、車は国産、マイホームも住宅ローンで購入した。いずれ小さな喫茶店でも開こうと、詐欺った金は海外の銀行に預けてある。オレでさえこんな簡単に稼げるのだから、皆んな同じようなことをしてるんだろうな。と思ったら、うちの事務所の連中は、客の女性を喰いまくるのが趣味らしい。まったく、保険鑑定人っておいしい仕事だ。

※この記事は防犯、防衛のための知識としてお読みください。実行されると罰せられるものもあります