防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

心身喪失・精神病を装えばどんな罪もチャラになる?

「心身喪失者の行為は、罰しない」

罪を犯しても罰にならないと定めた法律である。これを逆手にとって精神病を装えば、どんな罪もチャラになるのでは―。大阪池田小事件の容疑者がそうであったように、罪を犯そうとする人間は誰もが一度は考えるはずだ。

「オレもその1人ですよ」滝沢氏(仮名)は、統刀法違反で逮捕されたものの、精神病を装い不起訴で釈放された人物である。果たして、彼はいかなる手口で司法当局をだましたのだろうか。うつ病で会社を辞めサラ金に手を出す滝沢氏が犯罪を思い付いたのは去年のはじめ、会社をクビになったことがきっかけだ。都内の私立大を出で一部上場企業に就職。

産まれたばかりの長男と遊ぶヒマも惜しんでがむしゃらに働いたお陰で、新規プロジェクトの責任者に抜てきされる。が、後退を理由にプロジェクトは解散。ほどなく氏は閑職に追いやられてしまう。そんな境遇に陥れば誰でもヘコむだろう。滝沢氏の落ち込みは特に激しく、ついには上司に精神科への通院を命じられるまでに至る。

「そこでまた追い打ちをかけられまして。医者は別にボクの話を聞くでもなく、最近はあんたみたいのが多いんだよねって、うつ病と書いた診断書と、大量の抗うつ剤を差し出してきたんですよ」

世間にはカウンセラーに通うなど精神的な病気を抱えた人たちも大勢いるが、挫折経験のない氏には精神病と診断されたこと自体が大ショックだった。

それで思わず退職願を出してたんですけど、条件のいい仕事があるはずもない。短期バイトで食いつなぐも、妻と3人の子供の生活費をねん出するにはサラ金に頼らざるを得なかった。2年後、滝沢氏がようやく建設会社に就職したころには借金が300万円に膨らんでいた。

月の支払いは利子だけで5万。育ち盛りが3人いれば食うのに精一杯で借金の返済まで手は回らない。考えた末、氏は弁護士事務所に駆け込む。

「任意整理を頼むつもりだったんですが、弁護士は額が滅ったところで返済は難しい。自己破産した方がいいって言うわけです。まがりなりにも一流企業で世界を相手にしていた自分が自己破産ですよ。でも、プライドだけじゃ生活できませんから。最終的にはお願いしますって頭を下げました」

氏が心配だったのは会社にバレないかという点だ。せっかく職にありつけたのにここでクビになるわけにはいかない。自己破産については説明するまでもないが、裁判所への申し立てと同時にサラ金などの債権者へ自己破産であることを通達、一時的に返済義務や督促をストップさせ、その間に免責を取り付ければ借金はチャラになる。

滝沢氏の件についても、弁護士がサラ金各社に手紙を出し、コトは順調に運んでいた。が、ある日、某大手サラ金から簡易裁判所に提訴した旨の通知が届き事態はおかしくなる。内容は、利子はいらないから元金を返せというのだ。

「金融業界も苦しいんでしょう。踏み倒されるのはかなわないから少し返してくれってことなんですよ。でも1社と和解すれば他も提訴してきますからね。何とか免責が下りるまで時間を引き延ばそうとしたんですが」

時間かせぎに申し合わせ書を送るなどしたものの通知は直属の上司であるサ力タ課長の元に届き、氏は窮地に追い込まれる。皆の前で怒鳴られましたよ。

「自己破産したんだってな・そんなヤツ、うちの会社にいらねえ」
すかさず滝沢氏が、自己破産を理由に解雇できないと反論したところ、それが課長のカンに触った。ささいなミスを職務怠慢として会社に報告され、ほどなく氏はクビになってしまう。

「3年間、サカタ課長の下で働いたんですが、元々ボクは目の敵のように嫌われてましてね。たぶん大学の後輩ってことで部長に可愛がられてたのが疎ましかったんじゃないですか」

部長や同僚が慰留に尽力してくれたものの、撤回されず去年のはじめに解雇となる。再就職の難しさが身に染みている滝沢氏は、会社を去る日、精一杯の恨みを込め課長に言った。
「そりゃもうサカタを恨みましたよ。ボクにも落ち度はあったのかもしれないけど、クビはあんまりですもん」

そんなある日、職員がアドバイスをくれた。社長の推薦状があれば解雇にならないのではないかというのだ。
氏は、事情を話せば社長もわかってくれるに違いないと、すぐさま元の会社に電話を入れた。と、ウンの悪いことに出たのがサ力タ課長である。
電話に出た途端、

『なんだおまえまだ生きてたのか』

それ聞いてキレましたね。
こうして滝沢氏の中に、サカタ課長に対する復讐心が沸き起こっていく。何とかヤツを懲らしめる手段はないものか。脅すと言っても、課長にナイフを向けれぱ最悪、殺人未遂に間われかねない。滝沢氏は目の前で自殺するフリをして、ビビらせようと考えた。「厳密にいえばナイフを持参した時点で銃刀法違反になるんだけど、それなら不起訴に持ち込めるんじゃないかと思いました。だってナイフを持って元の上司や、うつ病と診断されたとき専門書を読みあさったんですよ。その中に刑法問題を扱う記事があって印象に残ってたんです。そしたら一度、精神病と診断された人間の9割強が不起訴になってるんです」
それに調べりゃボクに院歴のあることぐらいすぐわかる。で、精神鑑定が必要かどうかってことになるんだけど、その判断く検察だ。

計画を実行に移したのはそれから間もなくのことだ。当日は受け付けを無視し、営業課のある4階へと足を運んだ。と、すでにサカタ課長が入口で待ちかまえている。受付から連絡が入ったらしいー!

「いきなり、おまえ不法侵入だ・警察に通報したぞ」

って言われましてね。ボクも頭に血が上っちゃって、知らないうちにナイフを振り回すと、氏はトイレに逃け込む。そこで考えた。今ならまだ間に合う。ナイフを捨てて逃けよう、そう思うが早いか、トイレを出でエレべータへ。何とか無事に1階に到着。後は玄関から走って逃走するのみだ。と、急ぎ足で脱出口に向かう彼は、そこで信じられない光景を目の当たりにする。会社の前に機動隊のワゴン車が止まり、制服を看た警官が周囲を取り囲んでいたのだ。

連行された警察署の取調でこれまでのいきさつを話し、バタフライナイフを差し出した。刑事は口先で同情するなどと言うものの、犯罪は犯罪こうして滝沢氏は銃刀法違反で留置所にブチ込まれたのである。

措置入院が決定し犯罪は全部チャラ
検察官が、こいつおかしいんじゃないのかと咳いた。
「でも、まだ最関門の精神議定が待ってますから気は抜けない。夜中にわめいたり壁に頭を打ち付けたりして異常を装いながらも不安でしたね。大人しく罪を認めてりゃ罰金で済んだかも、なんて考えたり」

が、それも杞憂に終わる。1週間後、検札庁の取調室で行われた取調べは予想以上にいい加減だったのだ。

「だいたいー人の医者が、2時間面談しただけで、精神に異常があるか判断するのは無理があるじゃないですか。」

措置入院とは、本人の意志に関係なく病状が回復するまで強制的に病院施設に隔離することをいう。

ナイフ持参で会社に乗り込んでから2週間後、滝沢氏は入院ナシの措置入院で釈放された。逮捕歴は警察内の記録に残るものの、犯歴にはならないという。