防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

悪い医者と弁護士がくっ付けば恐いモノなし

いまどきの言い方をすれば、オレは人生の『勝ち組』である。36才、独身。地元工リアでは最大の総合病院に勤める傍ら、週にー度知人のクリニックにも顔を出す。年収はおよそ2千万。二P建ての自宅のほかに東京と大阪に投資用マンション、さらにクルーザーも所有している。元来、医者という仕事は社会的ステイタスに加え、人並み以上の暮らしが約束されているが、オレの場合はそれだけで終わらない。

三代続く開業医の家に生まれ、医者になれと言われて育った。日曜も祝日もなく仕事に追われる親父の姿は決して、うらやましいものではなかったが、他にやりたいことも見つからず一浪して私立の医大に進学。首尾よく国家試験にも合格した。もっともオレが専攻したのは心療内科だ。手術は苦手だし、人の生き死にに直接かかわるなんてとんでもない。理屈をこねまわす精神科が性に合っている。

「誰が精神科の医者になれと言った。家を継がないんなら、出て行けー」

親父の怒りはハンパじゃなかった。が、それもオレにとっては好都合。気ままな一人暮らしは快適この上ない(実家は薬剤師の妹が内科医を婿に取って継いだ)。自宅と病院の往復で、瞬く間に4年が過ぎた。朝から晩まで患者の話を聞くだけの毎日。正直、退屈で仕方がない。そんなオレにある日、園田といううつ病の患者が人なつこそうな顔で声をかけてきた。

「先生、よく寝られないんですよ。睡眠薬をもらえませんか」

役場に勤めていたものの、病気が元で退職を余儀なくされたというこの男、1年近く外来で様子を見てきた限り症状は完全に治まっている。なのに眠れないとは、よほど将来が不安なのか。じゃあ、とりあえず3日分だけ出しましょう

「3日なんてケチなこと言わず、1カ月分ぐらいまとめてもらえませんか。もちろん、タダとはいいませんから」

園田は悪びれた風もなくニコニコ笑いながら、1錠につき千円払うと言う。

「実はインターネットを覗いてみたら、睡眠薬がほしいって連中がかなりいるんですよ。相場は1錠2千円なのに、中には5千円出すから今すぐほしいってヤツもいますしね。ほら、私、いま失業中なもんで、少しでも稼ぎたいと思いまして・・」

なるほど、そういう思惑があったのか。そりゃ、睡眠薬から抗うつ剤、さらにはモルヒネ、バイアグラまで、処方範を書きさえすれば、いくらでもクスリは出せる。誰も公言しないだけで、医者なら何らかの形で横流し経験はあるだろう。どうせこいつはオレが断ったところで、もらえるまで他の医者を当たるに違いない。

「わかりました。長期旅行の予定があるってことにして、30錠出しましょう」

それが始まりだった。
『しばらくの間、自宅療養の必要あり』1カ月分30錠を園田に分けてやり、る金が3万円。処方篭を書くだけで小遺いになるなら見逃す手はない。オレはそれ以後もヤツから頼まれるたびにクスリを出した。最初あった罪悪感は1年も経たずして完全に消えていた。

そんな折り、高校時代の同級生、葛木(仮名)が悪い相談を持ちかけてくる。オレとヤツは3年間、テストでトップを競ったライバルで、個人的にも仲のいい友人だった。が、高校を卒業してからはクラス会や友だちの結婚式で顔を合わせる程度。確か地元の国立大を出て、特殊財団法人にいると聞いたが…。

「実はさ、おまえが精神科の医者になったの思い出して。ちょっと診断書を書いてもらおうと思ったんだ」

何でも、奥さんが交通事故で入院したものの、近くに親戚もおらず、かといって見ず知らずの家政婦に子供たちを任せるのは不安で仕方ない。ついては自分が休職して世話をしたいらしい。

「うちの会社、病気の場合は1年まで有給で休めるって規定があるんだ。つまり、自宅療養が必要だって診断書があればいいわけよ。確か精神科にそういう病気、あったよな。もちろん謝礼はするからさ」

いきなり来て何を言うかと思えば、ニセの診断書を書けだと。奥さんが入院?ウソつけ。ただ、ラクして給料もらいたいだけだろ。いったんは断ろうとして、思い直した。ニセの診断書を書いたところで、オレに何のデメリットがあるんだ。もともと精神の病気はあいまいなものだし、クスリを横流しするよりは罪がないんじゃないか。昔から用心深い葛木がベラベラ他人に秘密を漏らすとも考えにくい。まず、病院連中の耳に入ることはないだろう。

「オレが友だちでよかったなあ」

もったいつけて、診断書をデッチ上げる。

『職務のストレスからくる畿病と判断される。しばらくの間、自宅療養の必要アリ』葛木がそれを背広の内ポケットにしまい、代わりに茶封筒を差し出してきた。「これからもよろしく頼むよ」

封筒の中には20枚の1万円札が入っていた。
私が30万円いただいて残りを先生に「葛木さんから紹介されまして」
小塚(仮名)と名乗る弁護士がやってきたのは、それから1カ月後のことだ。家庭内暴力で困ってる奥さんを救うため、診断書を書いてほしいという。

「私のとこに相談にみえた女性なんですが、旦那さんがひどいアル中でして・・」

普段は大人しい夫が酒を飲むと豹変、殴る蹴るの乱暴を働く。警察に通報し、施設に保護してもらったこともあるが、家に帰ってくればまた同じことの繰り返し。そこで考えたのが、旦那を精神障害者に仕立て、強制的に入院させることらしい。一応、話のスジはとおっている。しかし強制入院(措置入院)となれば少なくとも2人の精神科医の診断書が必要だし、アルコール中毒では病院に閉じこめておけるのもせいぜい1週間がいいとこだ。根本的な解決になりそうもない。

「おつしゃることはわかりましたが、賛成しかねます。別居させるとか離婚調停を起こすとか、別の方法を考えた方がいいんじゃないですか」

「いやあ、それだと時間も手間もかかりますし、第一、金になりませんからね」

なるほど。依頼人から金を引っ張る手段として「精神病」を使おうって魂胆か。確かに強制入院はインパクトある。どうやら小塚は、すでに付き合いのある運送屋を確保して、旦那がいない間に夜逃げする手配まで整えているらしい。抜け目のない男だ。

「依頼者は夜逃げ代と別に100万出すと言ってるんですよ。私が30万いただいて、残りを先生にお渡ししますんで、なんとかなりませんか」

「そう言われてもねえ」言葉とは裏腹、心は決まっていた。診断書は1枚をオレが書くとして、もう1枚はクリニックで一緒に働く渋井(仮名)にヤらせりゃいいだろう。ヤツなら20万も握らせればホイホイ話に乗ってくるに違いない。1週間後、オレは2枚の診断書を手渡し、100万円の報酬を受け取った。話はだんだん大きくなってきていた。お気に入りのキャバクラ嬢のカラダも以後、小塚はちょくちょく顔を見せるようになる。六法より「精神病」をネタにした方が金になるというワケだろう。
一方オレは、リスクを感じつつも小塚の話にズルズルと乗っていた。金が狙いでもヒマ潰しでもない。ヤッの描く絵に、どうにも引かれる自分を抑えられないのだ。例えば、社会問題となってるリストラひとつ取っても、ニセ診断書が1枚あるだけで、面白いことができる。田中さんは40代後半のサラリーマンで、いわゆるリストラ要員だった。営業から突然の異動を命じられ、移った先は窓もない狭苦しい部屋。会社が自分を辞めさせたがっているのは明らかだった。

退職するのは致し方ないにしても、20年以上も働いた自分にあまりに手ひどい仕打ちである。そこで彼は、せめて金銭的な保証をもらう方法はないかと小塚の元を訪れる。この話を聞いた小塚は、

『会社の突然の異動によって精神的苦痛を味わい、それが原因で精神異常をきたした』との診断書を会社に提出、労災として保険をパクることを思いつく。もちろん診断書を書くのは、このオレである。果たして、田中さんは辞職に追い込まれたが、保険金の他に予想以上の退職準備金を手にする。ちなみにオレの懐には、20万円が転がり込んできた。残業が続いたことが原因でそう響病が発症、それを理由に解雇されたsEもいた。小塚は「正常」だという診断書を証拠に会社を不当解雇で提訴。結果、和解金をたっぷりブン取る。この一件にもオレが絡んだ。

まったく悪い医者と弁護士がくっ付けば恐いモノなしだが、時にはオレ1人で「仕事」をコナしたこともある。よく行くキャバクラでお気に入りの女のコが、しつこい男につきまとわれ困っていた。そこで診断書を書いた。

『××××氏に度重なるストーキング行為を受けた結果、パニック症候群を発症』

これを警察に持参し、被害届を提出させたところ、あっさりストーカー規正法が適用されてしまう。相手の男は警察にこってりしぼられ女の子の周りから消滅。何かお礼を、と言う彼女に、オレはしっかりカラダをいただいた。

『心神喪失状態』で借金も殺人もチャラ

ニセの診断書を書くことに、もはや何の跡曙も感じなくなった今年の春、小塚が800万近い借金を抱えた30才の多重債務者を連れてきた。通常なら弁護士が間に入り、任意整理や自己破産すれば済む話だが、この男、借りた金はすべてギャンブルと遊興代に注ぎ込んだのだという。なるほど。それでは自己破産したところで、免責にはならない。「この債務一覧を見てくださいよ。返済したのは最初の1月だけで、後は一銭も返してない。こんなヤッ、普通なら追い返すとこなんだが、親になんとかしてくれって泣きつかれちゃって。実はこいつのために両親はすでに2千万近い金を出してまして」

借金をしまくって首が回らなくなると親に尻拭いしてもらい、ほとぽりが冷めれば何度でも同じ事を繰り返すバカ息子。確かにまともな方法で解決するのは不可能だろう。そこで小塚が考え出したのは、ヤツを「禁治産者」に仕立てることだった。禁治産者とは、精神機能の障害で是非善悪の判断が付かない人間を指す。つまり、医師の精神鑑定を元に家庭裁判所が認定すれば、借金した時点で返済能力がなかったとみなされ合法的に借金がチャラになるという算段だ。「あとはオレがうまくやりますんで、先生はこいつが『心神喪失状態だ』っていう診断書をちゃちゃっと書いてくださいよ」なんと、オレが書くニセの診断書1枚で、本人も知らぬうちに禁治産者として社会的に葬ることができるという。なんという恐ろしい男だ。この調子で行けば「アイツは気に食わないから精神病院に入れて、コイツは禁治産者にするか」なんてヤツが言い出すのも、時間の問題かもしれない。ただ、例えそう頼まれたところで、二つ返事で引き受けそうな自分が恐い。
最後に、ウソのような本当の話をひとつ。詳細は明かせないが、とある刑事事件の精神鑑定を担当したときのことだ。事件は単純で、21才の少年が、道ですれ違った見ず知らずの男性を持ってたナイフで刺殺。駆けつけた警察に現行犯逮捕されたとい、つものだ。目撃者も複数おり、被告が実刑を受けるのは問違いないと思われていた。だが、少年の父親は地元でいくつもの企業を経営する実力者だった。この父親、事件直後からあらゆるコネを使って操み消そうと尽力したらしい。

しかし、どんなに力があったところで殺人事件をなかったことにするのは不可能だ。そこで考えついたのが、少年は犯行当時『心神喪失状態』で責任能力がなかったという強引なストーリーである。どのようなルートがものをいったのかは知る由もないが、最終的に病院の院長がオレに指示した。あの人に逆らってはいけない、と。生憎、それをはねつけられるほどの正義感は持ち合わせていない。オレはニセの鑑定書を提出し、代わりに昇給の約東を取り付けた。ちなみに、人を1人殺した少年は『措置入睦という形で父親の息のかかった精神病院に入り、1カ月後には退院したそうだ。

※この記事はフィクションです。防犯、防衛のための知識として読み物としてお読みください。実行されると罰せられるものもあります。