防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

取り込み詐欺で摘発の日々に怯えるのはもうコリゴリ

この不況下、マトモな仕事ではロクに食っていけない。が、言わずもがな、日本は法治国家である。違法行為を黙って見過ごすほどお上は甘くない。自然、闇商売に関わる連中は、絶えず摘発の恐怖にさらされることになる。

詐欺にしろクスリにしろ、それが身に覚えのある件なら対策は可能だろう。が、裏世界ゆえ、自分が直接かかわっていない事件に巻き込まれる危険性も高い。ま、自業自得といえないこともないのだが・・

★32才の若さで某大手都銀を退職した私が、小さな経営コンサルタント会社を興したのは、今をさかのぽること5年前のことだ。しかし、世は平成不況のド真中である。取引相手の中小企業は金を運用するどころか、どう金を工面するかに必死。毎日が自転車操業のような有様だった。
そんな現実を見るにつけ、真っ当なことをやっていてはとても食っていけないとばかりに、いつしか私は悪事に手を染めていく。幽霊会社を設立、「国民金融公庫」ゃ雇用保険などから金を引っ張り、バックレる。その手法を中小企業のオヤジたちに伝授し、手数料を吸い取ったのだ。

私の取り分は10%で、月に1-2件成功させれば軽く200万は儲かった。一応、表のコンサルタント業で大阪の中心地に事務所を博えていたものの、この調子ではマジメに働くのもバカバカしくなる。気がつけば、裏の仕事が本業になっていた。手を貸す相手のことは慎重に調査した。

コチラの正体はいっさい伏せた上で、紹介してくれた人間や本人の信用と財務状況などを事前に見極める。仕事後は証拠の類を一切消滅、本人とも連絡をとらないよう徹底した。石橋を叩いて渡り5年間。その間、私は危険な目に一度も遭わなかった。
「架空名義の通帳が手に入らないか?」

「融資の件で相談したい」

知人を介して木田(仮名32才)という男に会ったのは1月中旬のことだ。タレントの見栄晴のような顔をした、自称自動車販売業者である。この木田が開口一番トンデモナイことを口にした。

「新たに事業を始めたいんで、銀行から3千万ぐらい引っ張りたいんですけど」
「はあ」「いや、郷田さんならうまくやつてくれるって聞いたもんで」

こいつナメとんのか。いかにも胡散臭いクルマ屋に、銀行が3千万なんて金を出すワケがないだろ。

「自宅を担保に差し入れますので、どうかお願いします」

「自宅を?」

詳しく聞けば母親と共同名義の不動産を所有しているという。にわかには信じられず、後日調べてみると確かに時価2500万になる物件。3千万はムリでも、これなら相当の金が引っ張れる。しかし、それなら木田自身が普通に銀行から借りればいい。ナゼわざわざ他人に頼るのか。そこを問いただしても、木田は「郷田さんに頼むと安心ですから」と笑って繰り返すだけ。イマイチ信用できない。

が、結局、私はこの依頼を引き受けてしまう。融資実行額3千万。この報酬はあまりにも魅力的である。手順自体はいつもと同じだ。まずは事業を行っているよう装った書類の作成である。担保があれば新規開業でも申請は可能だが、金額が金額だけに1年でも業歴があった方が有利だ。そこで、100%デタラメの売上高を計上し、確定申告と納税の実績を作成する。

同時に帳簿類、伝票や事業計画書などを用意。審査を通すため、最初から最後まで完全に絵を描ききった。木田が

「他人名義の通帳が手に入らないか」

と私のもとを訪ねてきたのは、融資の手続きを終え、1週間がたったころのことだ。「なんでそんなもんが要んねん?」

「いや、郷田さんなら入手できるんじゃないかと思って」

「せやから、そんなものを何に使うんや」

「インターネット上で売れるんですよ」「なんぽになんねん」

「5万ぐらいですかね」

危険信号が頭の中に鳴り響いた。コイツ、そんなはした金にも困っとんのか。が、今ここでヘソでも曲げられ、300万がパーになったらタマラナイ。そこで思い出したのが、2-3年前に入手した他人名義の保険証である。

取引先のとある社長に作らせたシロモノで、サラ金の自動契約機で手続きしたら20万円借りられた実績もある。これを使えば安全だろう。こうして私はほんの軽い気持ちで口座を開き、木田に譲渡した。思えばこれが間違いの元だったのだ。
大阪の実家を警察がガサ入れ

融資は成功し、約束どおり金を受け取った。証拠をすべて消去した後、木田と連絡を断ったことは言うまでもない。我ながら完璧だ。自分の仕事に満足しつつ報酬の300万を酒と女に散財していた5月初旬のある日、突然、頭の上に雷が落ちた。大阪の実家に、警察の家宅捜索が入ったのだ。

「あんた、何か悪いことでもしてんのか」

オフクロが悲鳴のような声を上げて電話をかけてきた。が、思い当たるフシはない。「インターネットの取り込み詐欺だか何だか知らんが、××県警(私とは縁もゆかりもない地方の刑事が4人も来よったで」

「なんで××県警が来んねん。それにインターネットって、オレ、パソコンに触れたこともあらへんがな。勘違いとちゃうか」

「知るかいな。とにかく刑事さんのケータイに連絡入れとき」

ワケがわからないままオフクロに言われた番号に電話をかけてみる。と、相手がいきなり先制パンチをかましてきた。

「あんた、〇〇銀行に偽造保険証使って口座を開いただろ」

…なんで知ってんねん。まさか木田がネット詐欺をやらかしたんか。背中に冷や汗が流れる。

「すんません。確かに私は架空名義の銀行預金口座を開設いたしました。が、それは所得隠しのために作ったものでして」

「ふーん。そんで通帳はどうしたのかな?」

「いや、使用する機会がないまま、車上荒しに遭って盗まれてしまいまして。モノがモノだけに、警察に盗難届は出していません。ですから、インターネット詐欺のことなんてほんまに知りませんよ」

車上荒しとはいかにも苦しい言い訳だが、まだ余裕はあった。架空口座を作ったくらいで大したお答めなどあるハズない。ましてやネット詐欺とは正真正銘、無縁なのだ。「とりあえず、明日まで大阪にいるので、あいたいんだけど」

「いや、いろいろ忙しいもんで」

「何とか時間を作ってもらえないもんかな」

「ちょっと難しいですわ」

刑事の度重なる申し出を断り、大急ぎで木田のケータイへ電話を入れる。

「オマェ、例の通帳、どないしたんやっ警察が来たでー」

「あれは、インターネットで見つけた客に売りましたけど」

「ウソついとったらシバくで。連中がネット詐欺やら何やらいっとったぞ」

「ネット詐欺って何ですのん?」「何を寝ぼけたこと言ってんねん」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。ボクは今金に困ってるわけやないし、そんな危険なことをするワケないですよ。お願いだから信じてください」

「・・そうか。せやけど売る相手くらい調べとけよ」
この時点で、犯人は別にいりとにらんでいた。
それから1カ月再び刑事から。

「いえ。あれから・捜査をしたんですがあなたが犯人ではない証拠が出てきませんでして」

「何、ワケわからんこと言ってますのん」

「ですから、お金をひき出した人物があなたでないという確認だけとらせてください。お手間はとらせませんので」
ヤケに準備がよろしい。ひょっとして、すでに家一帯が囲まれているんとちゃうか。思わず、窓から覗いてみる。それらしき気配はない。うーん、どうするか。ここで無視しても刑事はまた電話をかけてくるに違いない。なんせ警察には、すでに実家の住所や携帯電話を知られているのだ。考えた末、指定された喫茶店に出向くと、コーヒーと写真を並べた刑事が待っていた。

「うーん。やはり、郷田さんではないようですね」「せやからいったでしょ」と、私が安心しつつタバコをくわえた瞬間だった。

「ご同行願おうか」隣のテーブルに座っていた3人連れの男たちがいきなり立ち上がり、両脇を閲めてきた。

「なんやねんオマエら」「××県警のものだ。今からお前ん家に荷物を取りに行くぞ」

抵抗するまもなく、タクシーに乗せられ、自宅マンションへ。玄関先で令状をつきつけられた。

「郷田、有印私文書偽造・同行使の容疑で逮捕する」

アカン。ほんまに逮捕されるんや。でも、なんでや?オレはホンマに何も知らんで。「インターネット詐欺の被害にあった××県在住の男性から届けが出てるんだ」

新大阪から××に向かう新幹線で、刑事の1人がいった。

「せやけど、私パソコンに触れたことなんかありませんて」

「まあ、いいからいいから。商品代金の振込先が、オマエの作った架空口座だったんだよ。これからジックリ取り調べさせてもら、っからさ」

ちくしょっ。架空口座は木田に売っただけでほんまに関係ないんや。犯人はアイツとちゃうんか。けど、ここで不正融資のことを打ち明けるワケにもいかない。どうすりゃいいんだ・・
本当のことをしゃべっラクになるか

警察署の留置所は、以前ケンカでしょっぴかれた大阪の警察署とはまったく異なる静かな4畳半だった。
取り調べが始まったのは逮捕翌日、午後2時頃からである。

「口座を作ったのはお前だな」「はい、そうです」

「その口座で取り込み詐欺を働いたのもお前だろ」「それは違います」

直接の容疑は有印私文書偽造。が、サツの狙いはあくまでインターネットの詐欺事件だ。「やった」「やらない」の水掛け論は丸2日続き、気がつけば、私は10日間の勾留延長と接見禁止を打たれていた。最悪の状況である。

「詐欺事件が起きた頃に引越して新車を買っただろ。ずいぶんと金回りがいいじゃないか」「偶然ですって」「ウソつくな。オマエには前歴あるだろ」

「単なるケンカですやんか」

「叩けばほこりが出てくるんじゃないのか。所持していた携帯や名刺の人間に探りを入れたら、そんな雰囲気が漂ってきたぞ」

悲しいかな、状況証拠はいやというほど揃っていた。「車上荒しに遭った」という供述もウソ臭いし、口座開設に使った印鑑の購入場所をスッカリ忘れてしまっているのもマズイ。頼るべきはパソコン環境に疎いことだが、それを主張したところで、

「共犯者がいれば可能だろ」と一喝されるだけ。もうどうにもならなかった。拘留日数はすでに20日を数え、心身の疲労は限界に達している。本当のことをしゃべってラクになるか。いや、何としても不正融資の一件だけは隠し通すんだ。しかし、そんな決意も拘留21日目に、刑事から聞かされた言葉によってもろくも崩れてしまう。

「いいかげん白状しないと、名義の保険証を使い、サラ金から金をつまんだ一件で再逮捕するぞ」「……」

返すことばがなかった。遊びで借りたそんな昔のことまで調べられているなんて。淵に立たされた私の元へ、担当の弁護士がさらに追い打ちをかける。

「切符が2枚になると、裁判も2件になるし、もしかしたら執行猶予がつかない可能性もある」もう、アカン。観念するしかない。このままだと、まったく身に覚えのない不ット詐欺の犯人にされてしまう。

私は、やっとのことで重い口を開き始めた。口座は木田という男に売りました。住所は「〇×△■・・」これで、木田は逮捕されるだろう。そうすれば私に対する疑いも晴れるに違いない。が、問題はその後だ。

ヤツが私との関係を、刑事にどう供述するか。私は「知人の紹介で知りあった飲み仲間」で押し通した。が、真実を告げられてしまえば一貫の終わり。今できるのは、
祈ることしかなかった。
7月某日に有印私文書偽造・同行使の罪で起訴された後も留置所生活はしばらく続いた。木田が逮捕された。私の供述の裏を取るためである。刑事にとっても私にとっても、運命の分かれ道だ。果たして、ヤツは私と同じ留遣所へ放り込まれると、まもなく「入手した架空口座を利用して、〈インターネット・オークション〉なるホームページを開設し、取り込み詐欺を働いた」ことを自白した。やはりアイツが詐欺の実行犯だったのだ。気がかりだった私との関係は、うまくゴマかせたようで、最後まで不正融資の一件について捜査が及ぶことはなかった。

さらに木田は『郷田さんは、インターネット詐欺にはいっさい関与していません』と白状。ここでようやく身の潔白が証明される。

★200万円の保釈金を積み3カ月ぶりにシャバの空気を吸ったのが9月のアタマ。1カ月後の裁判で懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡された。ほぼ予想どおりの判決である。一方の木田は、働いた詐欺の被害者が全国に及んでいるため、再逮捕の連続らしい。せっかく大金を手にしたというのに気の毒というか、自業自得というか。これでは実刑を免れないだろう。その後まもなく私は、裏コンサルタント業の一切から身を引いた。いくら実入りがよくとも、摘発の日々に怯えるのはコリゴリだ。