防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

不倫カップルを狙ったラブホテル無差別恐喝

当時ワイドショーなどで騒がれた失楽園恐喝の犯人といえば、皆さんも記憶の片隅に残っていないだろうか。
テレビや新聞では、そのころ世間に不倫ブームを巻き起こしたドラマ失楽園を見て、犯行を思いついたなどと報道されたが実際はブームになろうがなるまいが、いつの世でも不倫はいたるところに転がり、格好の脅しのネタであることに変わりない。
ただオレの用いた手口が少々斬新だったに過ぎないのだ。
当時オレはいわゆるプータロー生活を送っていた。なまじ、不動産会社の営業マンなんてやるとロクな人間にならない。入社した91年はすでにバブルが弾けていたものの、最初に配属となった東北南部の町ではまだ新築が面白いように売れ、年収が1千万を超えた。20才そこそこの人間がそんな大金をつかんで考えることといえば、クルマ、酒、そしてオンナをおいて他にない。オレもまた当然のように、金にモノを言わせるような遊び方を覚えたものだ。

しかし、年か経るごと不況の波は確実に田舎へも押し寄せ、年収は500万、600万とダウン。入社5年目、埼玉支店に転勤したころには、400万にも届かなくなる。そろそろ先が見えてきたかと、辞めることばかり考えていたある日、カード会社の女と知り合い、詐欺を覚えた。限度いっぱいカードを使い盗難を装う古典的な手口だ。

審査部に勤務する女に、100万以内なら右から左に書類を流すだけで処理されると言われ、その気になった。一度覚えた賛沢の味はなかなか忘れられない。面白いように金が入ってきて、またぞろ夜の街で遊びだす。が、パクれるカードに限りがあれば、オイシイ暮らしも長続きはしない。やはり、マトモに定職へ就いた方が賢明か。オレが悪い金儲けを思いついたのは、ちょうどそんなころだ。

ゴールデンウィーク明けのその日、知り合いの女と地元川越のラブホテルでエッチを済ませ、部屋を出たのが昼の3時ごろ。入れ違いに1組のカップルが車でホテルの駐車場へ入ってきた。男はスーツ姿の40代後半、女は30前後のOL風である。

「聞理いなく不倫だね」連れの女が笑った。ラブホ街じやよくある光景。気に止めるはずもない。ところが、なぜだろう。それから何日たっても不倫カップルのことが頭から離れない。あの、いかにも昼下がりの情事風の男と女。身なり風貌からして、男はそこそこの企業の役付きだろう。女はさしずめ男の部下といったところ。妻子持ちのエリートが会社の女に手を出して、というべタなストーリーが思い浮かぶ。ドラマ、小説なら、強請りに持ってこいの対象である。
オレにもできないだろうか。唐突にそう考えた。相手の車のナンバーから身元を調べ、証拠写真などを送りつける。事が事なだけに「表沙汰にしないでくれ」と懇願する相手。では、50万で手を打ちましょっか

頭の悪そうなヤツが描きそうな絵だ。確かに一度は成功するかもしれない。が、人間、必ず欲が出る。二度三度の恐喝が命取りになることぐらい、誰でもわかる。だからといって、新しいターゲツトを探すべく、毎日のようにラブホの出口を見張っていれば目立って仕方ない。こちらの車種やナンバー、人相、風体を記憶される危険性だってあるだろう。捕まるのは絶対ゴメンだ。強請るなら、絶対にこちらの正体がわからず、確実に金が取れ、効率のいい手口でなければ。オレはいつのまにか、真剣に犯行の絵を描き始めていた。

『誠実なあなたのことを表沙汰にしたくない』
どうして、そんな計画が立てられたのかと聞かれても、明快な返答はできかねる。最初はぽんやりと頭に浮かび、やがて形になったというところか。ただ、最終的にこの手口ならと確信を持つに至ったことは言うでもなく成功の自信があった。そう、自信がなければ、法を犯すなど怖くて、とてもできやしないのだ。

計画の詳細を話そう。地方の方はご存知のとおり、郊外のラブホテルは、必ずといっていいほど屋外の専用駐車場を完備している。そこに車を止めるのは、当然ながらホテルの利用者だ。恋人、夫婦、ナンパした男と引っかかった女、商売女とその客。組合せは様々だが、中に不倫のカップルが含まれているであろう。もちろん、どの車の客が不倫同士かはわからない。が、それは一切考えないことにする。とにかく、ラブホの駐車場に止めている車の持ち主、全員に脅迫状を送付するのだ。その中に心当たりのある人間がいれば、話に乗ってきておかしくはない。

数打ちゃ当たる、の原則はこういうところで生かすもんだ。関東一円に、ラブホテル密集地なんて腐るほど存在する。そこに車で乗り付け、駐車場の車のナンバーを片っ端からメモしていけばいいだろう。一つのエリアに10軒のホテルがあり、ー軒に5台の車が止まっていたとして50メモるだけなら2時間もかからない。場所にもよるが、1日2エリア、都合100台はチェックしたいところだ。

作業が終われば、それをまとめて陸運局に持ち込み、名我人の氏名住所を調べる。費用として1件につき330円かかる(印紙代300円用紙代30円)が、それで相手の身元がわかるなら投資は惜しめない。どうせ後で5百倍、1千倍になって戻ってくるのだ。さて、肝心の脅迫状だが、これは探偵が調査対象者を、は恐喝にありがちな設定としても、誠実そうなあなたのことを考えて表沙汰にしたくない、されどこちらもビジネス、

そこで取り引きしてもらえないかというこれは、それなりに説得力を持っていると思うが、いかがなものか。語り口も、根っからの悪党ではないと思わせるための、精一杯のカムフラージュだ。これを相手に送付して、金を振り込ませる。額は10万から多くても20万か。これぐらいならと相手が納得でき、かつ大半の入間が支払い可能な妥当な線だろう。振込先はいまでもなく架空口座だ。当てはある。

東北時代に知り合った女で、他人名義や架空名義の口座を幾つか所有している悪いフーゾク嬢がいてそいつからーつ盗んだものを持っていたのだ。いつか役に立つとは思っていたが、いま、まさにそのときがきたのだ。とりあえず絵は描いた。あとは、どれぐらいの人間が話に乗ってくるか。100組のカップルがいたとして、不倫を含め何かやましい部分のある2人連れが3割、実際に金を払うのがそのうちの10人に1人とすれば、全体の確輩は30分の1程度か。何か少なすぎる気もするが、こればかりはフタを開けてみないとわからない。
テレコを使えば簡単じゃないか
5月下旬、オレは群馬は高崎インター付近のラブホテル地帯を目指し車を走らせた。地冗、川越や所沢辺りにもホテルは多いが、最初から近場は恐い。
目的地に着いたのが夜の8時ごろ。最初のホテルには車が5台止まっていた。よく見れば、その中の1台で、若いカップルが乗ったまま話をしている。男の方がチラリとこちらに目線をくれやがった。なぜ、男1人でラブホに?ヤツはそう不審がったか。

いや、そうは考えないはずだ。こんなこともあろうかと、助手席のシートはあらかじめて倒している。きっと、ヤツは隣の女性が横になっているものと勘遅いしたに違いない。しかし、問題はこの状況で、いかにナンバーをメモるかだ。ボールペンとメモ帳片手に外へ出てウロウロするのは明らかに不審。車内から目をこらしたところで、その怪しさは変わらない。どうする。彼らが駐車場を出るまで待つか。それとも別のホテルに移動するか。いや、他へ行っても、車に人がいないとは限らないし、別の車が入ってくる可能性だってあるだろう。そこで、客にナンバーをメモる姿を見られたら・・

やってやれないことはない。が、顔を見られる、記憶に残させる、というのはいかにもマズイ。くそ、最初からつまづくなんて、やはり高級車はどうか。相手は金持ち。狙いがいはある。が、もしそれがヤクザの車だったらどうする。ヤクザ相手に脅しをかけるのか。おいおい冗談だろ。ターゲットは決まった。

もっとも不倫の匂いがするファミリータイプ。これを集中的に狙っのだ。結局その日は前橋まで足を伸ばし、可能性の高い車のナンバーを約40台チェック。近所のラブホに1人で泊まり、翌朝、前橋の陸運局で全車の持ち主を調べあげた。残るは発送作業だが、これは自宅で行った。パソコンで住所と名を入力し、茶封筒に例の手紙を入れ、表に80円切手と宛名ラベルを貼り、ポストに投函、という流れだ。

むろん、作業中は指紋が付かないようゴム手袋の上に白手袋を着用、投函するポストもわざと都内のものを選んだ。要求した金額は10万円。果たして何人が金を振り込んでくるか。10件の架空口座を取っ替え引っ替え手紙を投函して10日後に10万、その2日後に10万。脅迫状を送った見返りは20万だった。割に合うのか合わないのか、正直わからない。しかし、最初の振り込みがあった時点で、ナンバー調査→持ち主調査→脅迫状投函、の一連の作業はすでにオレに日課となっている。

今日は千葉、明日は宇都宮時には福島、仙台にまで足を延ばした。と、当初は4、5日に一度10万振り込まれていたものが2日に一度、やがて毎日となった。それぞれの金が、いつ投函した強迫状によるものかなんて知ったこっちゃいない。しかし、オレは正直驚いた。あまりに、、よく行きすぎである。なんせ、毎日、銀行に行けば少なくとも10万、多ければ30、40万の金が入っているのだ。笑いが止まらないとはまさにこのこと。通帳には、見も知らぬ振り込み人の名がずらりと並び、中には「ヨロシクタノム」と、これまた相手にとっては見も知らぬ恐喝者へのメッセージを入れているケースもあった。ああ、世の中にはなんて不倫カップルが多いんだ。己のアイデアで掴んだ金のなる木を決して離すまいと、オレは無我夢中で、のめりこんだ。
タ方5時、6時に出動して、ナンバー確認作業を終えそのまま池袋のクラブへ飲みに行き、オネーチャンとドンチャン騒いで、死んだように眠る。翌日は1日事務作業に没頭し、元気があればまたタ方から出動ールーチンワークと呼ぶに等しい、規則正しい生活である。

一方、足がつかないための用心もおこたらなかった。狙うホテル、投函するポストはできるだけ自宅から離れた場所を選択するのはもちろん、検問などに引っかかってもいいよう、酒気帯び運転厳禁を義務づけ、車にも証拠になるようなものは一切置かなかった。

中でも特に気を遺ったのは銀行口座である。バカのーつ覚えのように同じ口座を使っていれば、必ずどこかで足が付く。やはり、口座は早いサイクルで切り替えるのが賢明だ。今は可能かどうか定かではないは、当時はメールオーダーサービスで口座が開設できた。指疋の申込書に住所名を記入、身分証明書のコピーを添付して銀行に送れば、折り返し届け出の住所に通帳、キャッシユカードが郵送されてくるというサービスだ。

まるで、架空口座を作ってくださいと言わんばかりのシステムである。オレはさっそくこれを利用し、常に口座を開設、これを取っ替え引っ替え使っては、また同じ要領で口座を作っていた。ちなみに、身分証明はパソコンで作った偽造保険延通帳&カードの送り先は自宅から離れたワンルームマンションやアパートの空き家を充てた。

前職が不動産会社の営業マンだっただけに、空き家を見つけるなど造作もない。郵便受けに溜まったDMを片づけ、そこに名(銀行に届け出たもの)を貼り付けるだけで10日もすれば、銀行から郵便物が届いた旨の不在通知が入っている(審査でハネられる受ロもあり、全部は届かない)。

あとはそれを持って郵便局に行き、ブツを引き取るだけだが、厄介なのはここで本人を証明するための免許証や保険証が必要な点。むろん、本物があるわけもないので、一芝居必要になる。

「いや、家内がお産で実家に帰ってまして、保険証の現物がないんですよ。念のためコピーを取ってあるんですけど、これで受け付けてもらえませんか」

果たして、疑う局員は1人もいなかった。
金を振り込んだ女性の姿を見に行って…
9月、10月。金は順調に入り続けた。周囲に怪しい気配9はかんじられない。オレは有頂天だった。ただ、少なからず警察に被害届が出ているだろうことは予想できた。手紙を送りつけた相手の中には、当然やましいことなど一切ない人たちもいるわけで、彼らにしてみれば、脅迫状など恐くも何ともない。

突然の言いがかりに怒り心頭警察に訴え出る可能性は十分ありうる。しかし、証拠物件は指紋一つない手紙だけ。日本の警察がどんなに優秀だろうが、そこからオレにたどり着くのはまず不可能だ。それに万が一、オレに捜査が及んだとしても、彼らからオレは金を取っていない。容疑はあくまで恐喝未遂。起訴されたところで執行猶予は確実だ。では、実際に金を払った連中がどう出るかを考えた答、これは100%警察に届けないであろう。
やましいところがあるから、表沙汰にしてほしくないから、オレの要求に応じたのである。わざわざ、警察に自分の恥さらしに行くバカがいるわけがない。よくよく、この犯罪はオレに都合よくできているのだ。と、ほくそ笑みつつ通帳を眺めていたある日のこと、それまでほとんど意識しなかった振込人の名に、明らかに女性とわかるものがチラホラ混じっていることに気がついた。どこかの奥さんかOLか。いずれにせよ、彼女らは金を振り込んだことにより、計らずも、自らの不貞を告白したのだ。

不倫する0L、ダンナ以外の男とセックスした主婦。いったい、どんな女なんだろう…。邪悪な考えが頭を支配し、気がつけば女の住所を尋ね歩く自分がいた。顔を確認できたのは、ぜんぶで5人。大半が、どのツラさげて不倫してるんだ、とこちらが聞きたくなるような女だ。が、その中に1人だけいた。30前後のいかにも清楚な美人。

広い庭付き二建てのガレージから、セルシオに乗り外へ出てきた彼女を見かけたとき、オレは思わず体が熱くなった。危険な行為は百も承知で、住所から104で彼女の自宅の番号を調べ、電話をかけた。
家族構成も何もわからないが、彼女が普通の主婦なら、その時間、1人だけで家にいるような気がしたのだ。読みは的中した。

「はい、××」
快活そうに電話に出たものの、

「このたびはお振り込みありがとうございました」と切りださせれば、彼女も沈黙せざるをえない。

「いま、お一人ですか」「何でしょ」

「実は仕事で××様の近くに来ておりまして。例の一件でお話したいことがあるんですよ。申し訳ありませんが、▲▲公園までご足労いただけませんか。ご存知ですよね、▲▲公園」「・・・」

「お待ちしております」

電話を切って15分、彼女が場所に現れた。痛ましいまでに緊張した様子が見て取れる。

「立ち話も何ですから、車へお入りください」「……」

「いや、そんなに緊張なさらないで。少しならお時間いいんでしょ」
「…あの、私・・」「・・」

黙ったまま車を走らせ、幹線道路沿いのラブホテルへ。そこでオレは思う存分、彼女の肉体を味わった。むろん、このときすでに警察の捜査がついそこまで迫っていることなど、知るはずもない。

キャバクラねーちゃんのアパートは、なんと
逮捕はいつも突然やって来るように、オレの場合も絵に描いたような不意打ちだった。大宮のホテル街を回った後、自宅マンションに戻り、テレコに録音したナンバーを紙に書き写していたところ、「ピンポーン」とインターホンが鳴った。夜の11時過ぎだ。出ると、はきはきした女性の声が聞こえてきた。

「あの、下に止めてあるナンバー××××のセルシオ、桑原さんの車ですよね」

「え?・・はい、あ、どうかしたんですか」

「いや、実は私、車庫入れしてたら、ちょっとこすっちゃって」

ピンときた。警察だ。すった、とはもっともらしいが、内心びくびくしながら毎日を送ってきたオレにはわかる。とりあえず、覗き穴から外を見ると、トレーナーにGパンの20代後半の女性が立っていた。恐らく、彼女の周囲には屈強な刑事が何人も身構えているに違いない。観念してドアを開けたら、案の定、男の手が伸びてきた。ざっと見ただけで10人はいるか。

「桑原さんで間違いないね。あー、逮捕状が出てるから」

容疑は恐喝未遂。

「桑原よお。なぜ、おまえが犯ったってわかったか教えてやろうか」

取り調べに素直に応じるオレに、1人の刑事がフレンドリーな口調で話しかけてきた。「おまえ、所沢の女のアパートに行っただろ。あそこで張ってたんだよ、オレたちは」これが何を意味するのか、オレはすぐに悟る。思い当たるとしたらあの件しかないと考えていたが、まさか実際にそうなるとは…

逮捕から4日前の夜、オレはキャバクラのねーちゃんを口説き落とし、外で食事した後、車で彼女が住む所沢のアパートへ向かった。と、こんな偶然があるのか。そこは以前、口座を作る際、通帳とカードの送付先として使ったアパートだった。1階の一室に空き部屋があったのだ。

架空口座開設に利用したアパート、マンションは他に幾つもある。が、当然ながら不在通知を取りに行く以外は二度と同じ場所へ近づかない。用がないということもあるが、やはり警察が張り込んでいるのが恐い。そのときも、ヤバイとは思った。が、欲望には勝てなかった。結局、オレは同じアパート2階の女の部屋に転がり込み、朝方まで過ごしてしまったのである。

一方、警察はオレが脅迫状を出し始めた直後から捜査を開始していた。数は正確にはわからないが、警察署に似たような被害届けが大量に出されたのを受け、同一犯の仕業に違いないと行方を追っていたのだ。銀行に協力を依頼し、指定の架空口座から金を下ろすオレの姿が映った防犯カメラの映像を入手。様々な角度から写真に起こし、それを捜査員に持たせた上で、銀行、陸運局、ホテルなど、オレが立ち回りそうな場所へ張り込みをかける。オレが現れるのを待っていたのだ。

「まさか来ねーだろと思ったけど、おまえが銀行に届けてたアパートとかマンションも張り込んだ。そしたら、のこのこ現れやがってよ。あれがなかったら、もう少し生き延びられたのになあ」

担当の刑事が勝ち誇ったように言う。複数の口座を使用していただけに、特定に至るまでが並大抵ではなかったらしい。ちなみに、姿を目撃されて以後、オレには終始尾行が付き、ホテルの駐車場でナンバーを確認する様子や、陸運局での姿など、すべてが写真に撮られていた。

未遂。執行猶予付きの判決が出ることは確実と安心していたのだが、留置所での20日間の拘留中、実際に金を振り込んだ人たちに被害届けを出させ(7人が応じたらしい)「恐喝容疑」で起訴したのだ。

ラブホテルの客に無差別に脅迫状を送り刊ける手口が前例がないので本腰を入れたようだ。