防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

珍獣・熱帯魚の密輸という運び屋仕事

密輸、と聞いて読者のみなさんはどんな物を思い浮かべるだろう。

マリファナ、シャブ、拳銃といったところか。だか外国かり持ち込んではいけないモノ〉は他にもある。例えば動物。ペットショップじゃ買えない珍種は、今やクスリやチャ力同様ヤバイ。

現在、絶滅の危機に瀕した野生の動植物は、CITES=(サイテス。ワシントン条約の別称)の定めにより、世界130カ国もの間で輸出入・商取り引きが制限されている。

一方、こうした超レアものを欲しがるマニアは数多く、種類によってはー匹で数百万、数千万円もの大枚をはたく輩も少なくない。そんなわけで日々、税関の目をかいくぐって密輸されている動物だか、いったい誰がとのようにして、またいくらでこの運び屋仕事を請け負っているのだろう。実は、その多くがペットショップの人間、あるいは店側に頼まれた一般人である。

A氏は食材専門の商社に勤めるサラリーマンだ。ペット業界で“力ツギ屋“とも呼ばれるこの仕事をなぜやるようになったのか、どんな方法で密輸し、いくら報酬を得ているのか。包み隠さず、すべてを報告しよう。

もし見つかっても、「中身は知らなかった

熱帯魚専門のペットショップを経営する飲み仲間、酒井に誘われたのが、そもそものきっかけだ。
「米ちゃんってさ、たまに仕事でマレーシアとかタイに行ってるでしょ。ちょっと頼みがあるんだけどな」

「ああ、何でもいってくれよ」

酒井の依頼は、現地からアジアアロワナの稚魚を5匹持ってきて欲しいというものだった。

「向こうにオレの友達がいて全部手はずは整えてるから。米ちゃんはそのバッグを持ってくるだけでいいの。大丈夫、何度もやってるかり絶対バレないって」

アジアアロワナ。中国では龍魚と呼ばれ、幸運を招くとして珍重されるこの魚は、シーラカンスをほうふつさせるシェイプとその独特の光沢で、日本でも熱狂的な人気を博している。

「で、持ってきて欲しいのか、コイツ。カセイキンリュウ」

酒井が奥の棚を指さして言う。見れば、そこには青銅色のウロコをギラつかせながら悠々と泳ぎ回るアロワナの姿か。水槽の表面には「超特価、95万ー」の値札が付いている。彼の話では、かつてアジアアロワナはもっとも規制の厳しいサイテス(輸出入禁止。学術目的の場合のみ可)に指定されていたが、現在では養殖モノに限ってサイテスつまり政府の許可を添えた場合のみ商取り引きができるようになったという。

アジアアロワナにはいくつかの種類があり、中でも一番人気はマレーシアゴールドと呼ばれる過月金龍。ただ、同じ金龍でも養殖モノがいいとこ50万円ほどにしかならないのに対し、発色のキレイな野生種は価値が高く特に青みがった藍底渦背金龍、通称キメラブルーは、高いもので200万もの値がつく。これを現地で安く買い付け、ボ口儲けしようというのかヤツの魂胆だ。

「ー匹で5万やるよ。な、いいだろ。もし見つかっても、中身は知らなかったって言えばいいから。オレが責任持つよ」

そこまで言うのならオマ工が行けばいいだろうとツッコみたくなるか、何でもこの男、旅行と偽って東南アジアに飛んではさんざん密輸を働いてるため、税関からマークされかかっているらしい。まあ確かに、現地でブツを受け取って帰ってくるだけでー回25万はワルクない。しかも、万一捕まったとしても、知らぬ存ぜぬで通し、酒井を“売る“ことで無罪になれるのだ。ちょうどいい小金儲け、と考えるのもアリかもしれない。悩んだ末、私は彼の申し出を受けることにした。
稚魚用の水槽は力メラのレンズケース
2週間後、私はマレーシアの首都クアラルンプールにいた。会社の仕事存終え、あとは昼の便で帰るだけとなった出発日の朝9時。酒井から言われたとおり、ホテルをチェックアウトする直前に、教わった電詰をかけた。と、15分と待たないっちにホテルの部屋に日本人男性が現れた。尾崎紀世彦を小汚くしたような、見るかりに怪しいオヤジだ。「酒井から話は聞いてます。じゃあこれ。中開けたらマズイんで、それだけは頼むで」関西託りの男が差し出したのは、力メラ用とおぼしきハートケースだ。ちょうどー眼レフが2、3個入るくらいか。

「たぶんコレ、4・8キ口くらいと思うんやけど、必ず機内持ち込みにしてや。預けると(成田に)着いても時間食うてまうやろ。アンタの荷物も合わせると2個になってしまうけと、テキトーに言い訳つけて・・」

不安気な私に、男は面倒くさそうな顔で言う。

「力メラですっていっておいたらいいよ。趣味で撮ってるんですって。何も心配要らん」

持ってみると、ややずしりとは感じるものの、決して重たいといっほどのものではない。

「じゃあ、金もらおうかな。酒井かりもらっとるやろ」「あ、これですかね」

酒井から預かった封筒を手渡すと、男はそそくさと部屋を去っていった。男がいったいどんな人物で、酒井からいくら報酬をもらったのか。箱の中身はどんな仕掛けになっていたのか。そんなことはいっさい聞かなかった。いや、聞けない雰囲気だったといつべきか。箱をすべて知ってしまうと、かえって怖じ気つきそうな気がしたのだ。果たして、私はそのケースで難なくマレーシアの空港の荷物チェックをすり抜け、その約5時間後には成田空港の税関をパス。到着ロで待っていた酒井にフツを手渡し、翌日、4匹分の運賃20万(ー匹は死んでいたそうだ)を受け取った。

問題のバックの中には、ケースに見せかけた水槽3本と酸素袋、それに力ムフラージュ用の力メラが入っていたと酒井から聞かされたのは、それから数週間経ってからのことだった。
こうして、私は数力月に一度、マレーシアへ出張するたびにこの副業をこなし、毎回10-30万円を手に入れるようになる。稚魚を入れるための筒は、レンズケースだったり、釣竿の口ッドだったりとバリエーションに富んでいたが、バレるどころか怪しまれることさえなかった。ちなみに、酒井によれは、カツギ屋も運ぶ動物の種類によって、運び方がかなり違うらしい。

同じアロワナでも、現地で捕獲した野生モノにチップを施し(輸出用の養殖モノには、魚の体内にマイクロチップが埋め込まれる)、養殖モノと偽って堂々と輸入するなんてのは常套手段とのこと。聞くだけで体中がかゆくなるような話も聞かされた。サイテス2に指定されたイントホシカメやマダガスカルホシカメは、タイやマレーシアの市場ではー匹300円ほどで売られているが、日本に持ち込めは5-10万の値がつき、かなりの利幅が見込める。

そこで、力メに麻酔を施し、背中や足、パンツの中などにテープでグルグル巻きにし、中で匂わないように強列な香水を付けて飛行機に乗り込むといつ。猿の場合はさらにキョーレツだ。イントネシアのスマトラ島でよく捕獲されるオランウータンを密輸する際は、ちょうど背骨が重なるように背中に張り付けて入管チェックを通るそうだ。何でも、暴れ出さないよう一定時間おきにバナナを与えるのかボイントらしい。
ここまでくるともはや笑い話にしか思えないが、そこまで体を張れるのは扱いを熟知したショップ関係者か熱心なマニアだけ。最近では、海外の食料品を個人輸入して売る業者が、タイやマレーシアのペットショップや市場でブツを安くまとめ買いし、自分の商取り引き用の荷物に混ぜて帰国…といった例も少なくないという。

ただ、苦労して密輸した動物たちも最終的に売りさばく先はやはりソレ専門のペットショップ。結局は、ショップの息かかかった、あるいは店主とコネクションを持っているなど、販路に関わることのできる人間が小遣い欲しさに手を染めていると考えていいだろう。

★輸出入禁止動物の輸入は、国際問題に発展するだけあって、その罪は軽くない。

摘発された場合は、外為法、関税法、種の保存法などの罪に間われ、懲役ー年以内か40万以内の罰金に処せられる。

※この記事はフィクションです。防犯、防衛のための知識として読み物としてお読みください。実行されると罰せられるものもあります。