防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

保険金詐欺事件に悪用される保険システムの穴

いつの時代も、保険金詐欺を目的とした大きな事件は起こっている。

98年に起きた和歌山カレー毒物混入事件は世間に衝撃を与え、保険契約のチェック体制の甘さが問題化。以後、業界全体での改善が始まった。

替え玉がやり放題だった契約時の医師診察では写真「入りの身分証で本人確認」の徹底を図るとともに、法人を受取人とする従暮貝の保険加入でも本人の署名と捺印を義務付けた。

さらに失業保険協会は、保険各社が高額契約者情報を共有できる契約内容登録制度を改定、億単位だった登録対象者を3千万円台にまで引き下げた。しかしこの制度は、登録や照会が各社に任されており、確固としたシステムにはなりえていない。

埼玉県本庄市の保険金詐欺疑惑で、容疑者がー年間に16社で合計11億以上の生命保険に加入していたのは記憶に新しいところだ。いくら外交員に面談報告書の作成を義務付けたところで、現場でそれが守られるかどうかは別だ。
「新規契約のノルマは月3ロ。不自然と感じても、断るほどの余裕はない」

新規の顧客を開拓しなければ食っていけず、不正予防も考えねばならないという矛盾を抱えている限り、詐欺師たちが付け入る土壌は十ニ分にあるのだ。個別のケースは後で検証するとして、ここでは詐欺事件に悪用される保険システムの穴について考えてみよう。
自動車保険は損保詐欺の見本市

事故や災害など、万一の場合に備え、保険金という保障を掛け金で買うのが保険である。保険の種類は大きく分けて2つ。国民健康保険や社会保険に代表される、国民の義務として強制的に加入させられる「公的保険」と、民間の保険会社が運営する私的保険だ。

私的保険は、さらに生命保険と損害保険に大別。後者は、大事件多発でチェックが厳しくなった生保に比べ保険金が出やすいともっばらのウワサだ。そもそも損害保険は、物が壊れた・盗まれた・人をケガさせた・させられたなどの損害賠償を約束したもの。自動車保険火災保険傷害保険をメインに、最近ではコンピュータソフトのプログラム消失に備えるコンピュータ保険や、企業の取締役の訴訟対策用保険なんて新商品まで登場している。

いくら高い保険料を支払っても、被対象物より高い保険金は下りないが、焼失した家財、壊れたコンピュータソフトにどれだけの価値があったかなど証明のしようもない。よって、保険金を詐取しようと思えば、自分で事故を装ったり、荷物が盗まれたと偽るだけでOKなのだ。もちろん、保険会社とてみすみす不正を許すわけではない。損害保険への加入は代理店を通じ手続きを行うのが通常で、保険会社の指導に沿った審査を施している。さらに言えば、取り扱った契約に事故がないほど信用が高くなるため、常識的には代理店ど契約者が結託して保険金を不正にパクることなどもありえない。ただ、自動車保険の場合は、その限りではない。

悪意がなくとも交通事故は多発するため、事故証明と修理工場の請求書があれば、保険金を出さないわけにはいかないのである。詐欺師たちはここに付け込む。自動車工場と組んで事故車をでっち上げたり、車検切れ間近の車を故意に破損させるのは序のロ。仲間と当たりやグループを結成、保険の受取人を何度も入れ替えては事故太りする連中も現実に存在する。

損保会社もこれにはたまらず、いままで車検証1枚で契約可能だったシステムを改正。高級外車の契約に際しては、現物の確認、または写真の提供を求めるようになったが、焼け石に本。いまだ詐欺師たちの餌食になっている。

車に宝石・家財道具。盗難保険が餌食に
自動車保険詐欺のおもな手ロは、偽装盗難だ。盗まれてもいないのに警察に盗難届を出し、保険金をパクる輩が後を断たない。また、3百万相当の中古ベンツを「5百万の価値がある」と偽り、財テクの一環に利用する連中も少なくない。

通常、その時価額をわざわざ鑑定ずる手続きを行っていないため、損保代理店経営者に眼カがなければ、事実上、契約者のいい値で申告される。火災保障ならき焼け跡から発掘された商品の値打ちを推察することも可能だが、現物がない以上、どうすることもできない。

損保会社としては申告が虚偽と見破るしか支払いを拒杏する方法はない。車がー台盗まれたくらいでは警察は動かずどこにあるかわからない車を独自で探し出すなど無理な話だ。できるのは、契約時に撮影した写真を元に、言い値と時価相当額を争うこと。それとて決定的な対策にならず、結局ニ束三文の車を新車並みの価格で補償せざるを得ないのか現実なのである。
ある代理店主が嘆く。
「損害保険の9割は自動車保険なんですよ。加入時の写真提供だって、全部の車に求めるわけじゃない。しかも、規則じゃ1千万円以上の契約については本社の部長職に相談することになってますが、保険料が高ければ掛け金が高くなるので結局、入れちゃう。私たちは契約者の人を信頼するしかないんです。」
自動車のケースと同様虚偽盗難の手口でパクられているのが、家財道具の商品などを対象にした動産総合保険だ。自宅マシションのガラスを割られ泥棒に入られたと偽って警察に被害届を提出。貴金属や時計が盗まれたと保険金をもらう。被害があったかどうかは確かめようがなく、申請されれば保険金を払うしかない。
だからもう宝石店は損害保険会社が契約してくれない。
1千万以下の生保加入は健康告知もロ頭申告のみ
生保を狙った詐欺も相次いでいる。今年だけでも、知り合いの女性に偽装結婚させて保険金を詐取した埼玉本庄の事件、夫と次男を殺害した佐賀・長崎の事件、そして大阪の野宿者を狙った未遂事件などが報じられた。

損保に比べ審査が厳しくなったとはいえ、生保システムもいまだ穴だらけだ。契約時医師の検診とともに重要視される書類に、加入者の健康状態を記入する告知義務がある。これは、過去5年間の既往歴を問うもので、偽ると、それだけで一方的に契約を解険または保険金の支払いを拒否されてしまう(告知義務違反)。

ところがこの告知義務は2年で時効。そのため、2年を過ぎると途端に審査が甘くなり、よほど不自然でもない限り契約者を調べられない。おまけに高額保険契約者の場合は加入時に医師の診察を受けさせても、ー千万円以下の小ロ契約者についてはロ頭諮間で済まされる。つまり、告知義務にどんなデタラメを書いても調べる手だてはなく、2年間大人しくしていればパクリ放題なのだ。

一応、高額契約者については保険各社で情報を共有できるシステムを作ってはいるが、その内容のお粗末さは前述のとおり。逆を言えば、常々マークしている札付きユーザー以外、ブロックする手だては皆無である。結果、穴埋めは善良な客からの掛け金でまかなわれている。唯一の救いは、第三者による保険金の受け取りが認められていないことか。よく、死んで借金を返すなどと言われるとおり、自殺でも保険金はおりる。ただ、そのためには少なくとも2年以上は掛け金を支払わねばならない。

ところがここにも穴がある。契約者が会社に勤めている場合は、法人つまり会社を受取人とするケースが認められている。これは万が一、事故が起こった際に、従業員の親族への補償金に充てるというのがあるのだが、整理屋や悪徳金融業者たちは、ここに目を付けた。

債務者の借金を肩代わりして一本化し、自分たちの息がかかった会社に入れ、タコ部屋やマグロ漁船で働かす。運良く生き長らえて借金を返済できればよし、途中でリタイヤすれば人目につかない山の中や治外法権の洋上で事故を装って殺すまでだ。証拠が残らなければ保険金が支払われるため、今でも債権回収の究極の手法として用いられているという。