防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

限りなく詐欺に近い消火器の訪問販売の手口

3年半勤めた喫茶店のバイトを辞めたのが今年6月。ーカ月ほど遊んだら、あっという間に金が底をついた。しばらく日払い仕事にでも就くかとスポーツ新聞の求人欄をあさっていると、格好の募集広告を発見

(日払いー万8千円・防災)

防災ってのが何やら怪しいか、日払いー万8千円はあまりに魅力的だ。さっそく、問い合わせの電話を入れてみた。

「あー、それじゃあね、一度会社の方へ来てよ」

「何の仕事ですか。広告には防災販売としかい書いてないですけど」

「消火器をね」「え、消火器?」思わず聞き返してしまった。
消火器といえば、もう展開は読めたも同じだ。

〈消防署の方かり来ました〉なんていうインチキな口上で、バカ高の消火器を売りつける悪徳商売だろう。あんな仕事、まだ残ってんのか。

「あー、詳しいことは後で説明するから。今かり面接に来てよ」「はあ・・」

とりあえず、話だけでも聞きに行くかと、教えられた住所尋ねる。応対してくれたのは、先ほどの電話の主と同一人物で、この会社の社長らしい。

「あー、みんな頑張ってるでしょ。見てよ、ほら」

社長が壁に貼られた表を指さした。汚い字で8人の名前が書かれ、それぞれ上に赤い棒が延びている。なんてわかりやすい売上げグラフなんだ。

「つまり、消火器を売る仕事なんですね」

「あー、うん、まあそう言うことなんだ。あー、みんな頑張ってるよ」

僕のことをわかりが早いと見たか、社長は具体的な説明を始めた。消火器には2種類あって、大型が2万5千円(後で知ったが原価は3千円程度)で小型がー万5千円。これを3機ほどキャスターに乗せ住宅街を回り訪間販売していく。大型がー機売れたら、販売員にキャッシュでー万円(ただしこのうちー千円は月末文給。理由は不明)

小型なら6千円。つまり、求人広告にあった「日払いー万8千円」はー日に大型2機を売った場合の報酬といっことらしい。
「あー、じゃすぐ回ろうか」「は?」「キミ、やる気があるから来たんだる」

「はあ・・」「じゃあ、すぐ着替えて」

そう言って、社長が口ッカーから、胸にプレートの付いた作業着を取りだす。プレートには日本防災設備と書かれていた。
「おたくの方を回るよう言われました」
ー時間後、僕は大型消火器3機を乗せたキャスターを押しなから、横浜線の駅周辺の住宅街を歩き回っていた。とにかくやれるだけやってみろと、社長に車で連れて来られたのだ。事前に教えられたセールス法はこうだ。消火器のない家に、新規に購入してくれと言ったところで、元々防災意識の低い家人のこと、断られるのがオチ。そこで、すでに消火器を持っていそうな一軒家に取り替えろを名目に訪聞する。とはいえ、最初からセールストークをかますのではなく、まずは次のように切り出す。

1「防災の設備の検査に来ました。おたくの方を回るように言われました」さも、自治体かりの指示で来たように思わせるのがミソ。消火器といつことばを出さないのもボイントだ。玄関の戸を開いたら、そこでおもむろにー枚の用紙を取り出す。すでに相手の住所、名前が書き込まれ、〈消火器の型と本数〉の項目が空欄になったものだ。もちろん何の意味もない、相手を信用させる小遺具に過ぎない。名前と住所も、チャイムを鳴らす直前に表札を見ながら記入しただけだが、それでも効果はあるらしい。相手が納得したところで、「消火器を確認させていただけますか」と家に上がり込む。そして、すぐさま消火器の製造年月日をチェック(本体に貼ってある)、5年以上たっていれば「これ、古すぎていざというとき使えないかもしれませんよ。取り替えた方がいいですね」と、ことば巧みに新品を買わせる。

もし、訪間先に消火器がなかったり、製造5年未満だった場合はどうすればいいのか。という疑間はあるが、社長は「古い家ならたいてい挨にかぶったのが押入に入ってる」と答えるだけだった。そんな限りなく詐欺に近い方法で上手くいくのだろうか

疑間と不安を感じつつ、僕は古い住宅を見つけてはチャイムを鳴らした。結果は無惨。50軒ほど回ったうち話を聞いてもらえたのが数軒で、あとは留守宅を覗除いて、大半の人に「結構です」と冷たくあしらわれた。

契約以前の問題。もちろん報酬はー銭もない。やはり、こんな怪しげな話に乗ってくるヤツはいないのだ。と思ったら、これには理由があった。なんと、横浜市の住宅には「消火器のセールスには絶対に乗るな」と回覧板が回っていたのだ。どうやら社長は、新入りの僕にワザとセールス困難な場所へ行かせ根性を調べたかったらしい。
おばあさん2人に購入してもらったが…

初日が徒労に終わったにもかかわらず、僕は翌日も横浜に出かけた。この日は、別の販売員ー人と世田谷へ。例によって、キャスターを押しつつ住宅街を回る。けんもほろろに断られて10数軒。やってられんなあと思いつつ路地を曲がると、築30年はたってそうなアパートが現れた。そういえば…。僕は初日に別の販売員が話していたことを思い出した。

「あの××荘の大家も買ってくれたよ」なるほど。共同アパートなら、防災のための消火器が置いてある可能性は大。しかもこのボ口家なら、相当古いタイプに違いない。大家に頼めば、買って<れるかもしれない。確認のため敷地に入ると、案の定、10年以上前の消火器がー機。これはイケる。僕はアパートかり出てきた人に大家の住所を聞いて、直接セールスを仕掛けた。

果たして、人のよさそうなその大家(おばあさん)は

「住人の方に万がーのことがあったら」という僕のトークに、何の迷いもなく大型タイプをー機購入してしまう。ほとんど脅しである。この後、僕は40数軒の一軒家やアパートを訪問し、ー件の契約に成功した。これまた人の良さそうなおばあさんで、「暑いのに大変ねえ」と麦茶を出してくれる親切ぶり。正直、心が痛んだ。会社に戻り2件分のー万8千円をもらった。

「この調子で頼むよ」社長が笑顔で背中を叩く。が、結局、僕はこの日で仕事を辞めた。年寄りに対し、詐欺に近い商売をするのが耐えられなくなったことに加え、他の販売員からこんなことを耳打ちされたのだ。

「この消火器な、使えるかどうかわかんないぞ。社長もよく知らねえっていってたもん」

まったく、ひとい話があったもんだ。

※この記事はフィクションです。防犯、防衛のための知識として読み物としてお読みください。