防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

損害保険をせしめる詐欺の手口と事例

※この記事は防犯、防衛のための知識として作られたフィクションです。読み物としてお読みください。実行されると罰せられるものもあります。

どんなに平凡な会社員でも、長年働いていればその道の知識や経験、勘というものが身に付いてく るものだ。証券会社の社員なら株や相場の読み方に長けているし、海外旅行の代理店に勤める人間であれば、航空会社や各国の通貨に関する知識は一般人の比ではないだろう。仕事とは、言うなればその人の得意分野を意味しているのだ。

私の場合、それが損害保険だった。長年、不動産会社に勤めていた関係で土地に関して詳しくなったのはもちろん、火災保険や自動車保険といった損保の知識も身に付いたのだ。 通常、損害保険の資格は、初級、中級、上級、特級の4段階に分かれ、中級以上の資格を取れば個人 で代理店が開けるようになっている。

私は会社の在籍中に本業の足しになればと試験を受け、上級を取得。その気になれば、独立して稼げるぐらいの知識を持つまでになった。 が、その後は一身上の都合というやつで4年前に退社、現在は某建材メーカーに勤めている。もう 保険の仕事に関わることはないだろう。そう踏んでいたのだが…。

それは2年前の冬。昔からの知りあいである堀田と地元のスナックで酒を飲んでいたときだった。 ヤツは同い年でパチンコ屋の店長。離婚した後、娘2人を引き取り、自分の両親といっしょに田んぼ脇の一戸建てに住んでいる。そんな堀田がこんなことを言い出した。

「今度、家建て直したいと思ってさあ。ほら、オレんちポロイだろ。もう雨漏りだの、白アリだので相当ガタきちゃってさ」

堀田の家には遊びに行ったことがある。確かに、敷地は広いものの築30年は下らないオンポロ一軒家。そろそろ建て替えどきと考えるのも、わからなくはない。

「でもさ、建て替えるのは大変だぞ。解体ってかかるし。だいいち、オマエそんな金あるのか」 金遣いの荒い堀田のこと。どうせ金でも貸してくれと言い出すのだろう。 「いや、実はうちの親父の退職金が出るんだよ。来年、役所の定年だから、3千万くらい入るの」

「そりゃ何よりで。でもさ、なんなら自分で家、燃やしちゃえば?そしたら解体費用が丸ごと浮くし。オマエん家だったら田んぼのカカシが焼けるくらいで、近所に迷惑かからないだろ」

「バカヤロ。そしたら浮くどころか、火災保険で家建っちゃうよ」

「よつしや!じゃ今度、紙よこしてみい・オレが見てやつから」

「そうだなぁ、それがいいなあ。なんせオメエ、保険のプロだったからなあ」

「そうだよ。全部、オレが仕組んでやるぜ」 「頼んじゃおうかな、保険金詐欺。オレんち、よく燃えるぞ。ハッハツハ・・・」

すべては酒の席でのヨタ話である。バカな冗談を言い合ったに過ぎない。ところが。 「こないだの話、考えてみたんだけどよぉ」

翌日、堀田から電話がかかってきた。

「何の話だよ」 「だから、家燃やしてって話だよ。実際、どうなのかなあって思って」 「本気か奥おめえ」 「当たり前だろ」

堀田の声が上ずっている。こういうとき、ヤシがウソをついていないのは長い付き合いでよくわか る。にしても、まさか本気で考えてやがったとは。堀田は言った。家の建て替えはオヤジの退職金で十分賄える。が、娘の将来のことを考えた場合、どうしてもまとまった金を蓄えておきたい。自分が中卒だけに、せめて子供くらいは大学に進ませたい。それが離婚して迷惑をかけた娘たちへのせめてもの償いだ、と。しょせんはパチンコ屋のしがないやとわれ店長。いつクビを切られるか、わかったもんじゃない。似たような境遇の私としても、その気持ちは十分理解できた。

が、そのために自分の家を燃やして保険金をパクろうなんて冗談にもほどがある。もしコトが明る みになれば詐欺罪で逮捕されるのは確実:へたしたら私も共犯でパクられるだろう。

「バカなことはヤメとけって、な」

「いや、もうオレの人生でこういうチャンスはねえと思うんだよ。どうしても手貸してほしいんだ」
堀田は譲らない。そこまで言うのならという気もしてくるが、いくら保険に詳しいとはいえ、私に詐欺なんてできるのか。
「まあわかった、わかった。そう慌てるな。オメエ、火災保険の証書持ってるだろ。それ持っていつもの店にこいや」
実行すべきかどうか、すべては証書が教えてくれるはずだ。その夜、行きつけのスナックで合流した私と堀田は、そのまま近くのカラオケボックスへ。
「オイ、持ってきたか」
「おう、当たりめえよ」
堀田家の証書の内容は、大まかにいうとこんな内容だった。

加入している会社は損保の大手××海上火災

現在も月に1万円を払っている。

肝心の受け取り額は、全焼で3千万円。中途半端に柱が残ったり、基礎がまだ使えるような状態なら、その半額程度。要は状況によって保証額が減るらしい。
特に気になる付帯条件もなく、出火原因も問われることはなさそうだ。つまり、住人の過失だろうが放火だろうが、金は受け取れるということだ。
「で、どうよ・オヤジが昔に契約したヤツだから、オレもよくわかんなくって」
私の顔をのぞき込みながら、堀田が神妙な面もちで聞いてくる。
「いや、特に問題はねえみたいだけど。オメエ、借金はあるか」
「車のローンぐらいかな。でも、ちょっとしか残ってねえ」
「じゃあ、これまで火事に遭ったことは」
「ないね」
「放火魔に疑われたことは…」
「あるわけね-だろ」
本人の借金状況と出火歴は、火災保険を調査する上での重要なポイントだ。どちらかがひっかかっていれば、話は水に流さなければならない。
しかし、出火歴はともかく、ヤツの借金はほぼゼロ。どころか、オヤジの退職金で金が入ってくる予定なのだ。疑われる要素はどこにもない。話が一気に現実味を帯びてくる。
「なるほどな。堀田、条件は問題ないし、やれねえことはねえ◎あとは火のつけどころと…」
「なんだよ」
「オメエの度胸だけだな」
格好付けたつもりも、脅かしたつもりもない。本心からの言葉だった。気の弱い堀田にとっては思い切った選択だろうが、これをやり遂げれば人生がずいぶんラクなものになることは確か。万一、失敗すれば、考えたくはないが、やはり刑務所行きは免れない。いくら親友の仲とはいえ、ダダでこんなマネができるか。
「あのな。わかってると思うけど、オレだって危ない橋、渡りたくはねえの」
「わかってる。金だよな。じゃあ出た額の1割払うってのはどうだ。そんなにワルクないだろ」
つまり、3千万出たら300,2千万なら200というわけだ。友達価格にしても安い気がするが、ヤツから何度か借金したことのあるオレとしては首を縦に振らざるをえなかった。さて、…はどうやって証拠を残さずに燃やすかだ。

これは考えに考えた結果、タバコの火の不始末とすることにした。出火原因では1,2位を争うほど多いし、幸いにして堀田の家庭は2人の娘を含め全員が勝者である。
火をつけるのは夜に限る。それも皆が集まる中。フトンで一服していると、いつの間にか夢うつつ。そのスキにタバコの火が上がるという設定はどうだろう。
考えれば考えるほど、これ以外ないような気がしてくる
そうと決めたら、あとは既成事実を作ればいい。オレが書いたシナリオは以下のとおりだ。
ま9時にオレといっしょになじみのスナックに入り、飲めや歌えやで一時を過ごす。そして、四時を過ぎたころにベロベロのブリをして帰宅し、そのまま寝床でタバコを一服。吸いかけの1本を座布団の上に置いて出火させ、しばらくたつと火の煙に。慌てて家族を叩き起こして脱出したが、119番の通報が遅れたため、家はすっかり焼け落ちてしまった…。
酒飲みの堀田なら目隠ししてでもこなせる段取りだろう。
スナックでオレと飲むというのは、言うまでもなくアリバイ作りのためだ。後々、保険の調査員がやってきてアレコレ事情を調べるだろうから、そのためにもオレや店の人間の証言が必要となる。ま、スナックで酒を飲むとはいっても、ほどよい量で十分。酔い
具合なんてその日の体調次第だから、少しの量でベロベロになったところで不審がられることもない。
肝心なのは、帰宅した後だ。必ず脇に灰皿を置き、出火したら、ボヤで終わらないためにもある程度燃えるまで耐えておいた方がいい。周りにティッシュの箱やら、雑誌やらを不自然にならない程度に置いておけば自然と火は立ちやすくなるだろう。
最後の最後、119番への通報は、なるべくパニック状態を心がけたいところ。あまりに細かい状況を冷静に説明し過ぎて、かえって通報者が疑われるという例を私はいくつも知っている。
私は、自分が仕組んだ段取りを堀田に教え込み、最後にいちばん気にかけていた点も忘れずに忠告した。
「この計画を家族には一切言うんじゃないぞ。それと、何が何でも死なせるな」
ヘタに打ち明けると親に止められるのは必至。実行したところで、後々になって余計な事をしゃべられるのがオチだ。ヤツは大きくうなずきながら応えた。
「わかった。誰にも言われえことにするよ。オヤジには相談しようかと思ったけどヤメた。で、何か他に準備しておくものは…」
わかってないヤシだ。火事なんて急な出来事なのだから、準備もへったくれもない。むしろ、何も準備しないことこそが、最良の準備なのだ。
決日。私は堀田と2人で行きつけのスナックで皿時過ぎまで飲んだ後、車で彼を自宅まで見送った。
「覚悟はできてるよな。ちょっと飲み過ぎてねえか」
「大丈夫。こんな大一番でグーグー寝れるほど、オレも大物じゃねえから。ワハハッ」
堀田は落ち着き払っている。酒
がちょうどいい具合に彼の肝を太くしたのかもしれない。私はヤシがフラフしながら自宅に入るのを確認した後、ゆっくりを発進させた。

果たして、堀田は見事に計画を完遂し、自分の家を焼き尽くした。家が燃えるのをこの目で見たわけではないが、本人から聞いた状況は次のとおりである。家に帰ると、起きていたのは長女だけ。さっそく自分の部屋に行き、タバコをつけて座布団の上に置き、横になった。まもなく火が回り始め部屋の中は煙が充満。そこで「火事だ」と飛び起きて娘と両親を外に逃げさせたという。
「とにかく慌てブタめいたフリをして、5分でも時間を稼げ」という私の言葉どおり、まずは近所の人の家に駆け込み、住人を起こして119番。消防車が駆けつけたころには家の3分の2が焼け落ちており、消火した時点でほぼ全焼だったという。
築30年の家なら十分考えれる事態である。
「やっちまったよ、ついに」
堀田からの電話があったのは、火事の明朝5時だった。くたびれた声だが、達成感に満ちている。
「で、どうすればいい」
「まずな、今日はたぶん警察と消防の現場検証があると思うんだよ。だから、何も知らねえって答えるんだ。保険屋はその後でいい」
「わかった」
その日の正午、堀田の家を見に行ってみると、ポロ家は跡形もなく全焼していた。柱もちゃんと黒焦げて使いモノにならなくなっている。見事なまでの焼けつぶりだ。家の前を見やると、しょげ返りながら、近所の人間や警察、消防団に必死で謝っている堀田がいた。見たところ、どうやら現場検証の真っ最中らしい。
「何がなんだかわからないけど、気がついたら俺の部屋から火が出ていたんですよ。もしかしたらタバコの火かもしれないんですけど、飲んでたから覚えてません。ねえ、オレと家族はどうなるんですか」
堀田は誰に聞かれても、そんな受け答えしかしなかったそうだ。放心状態の顔でこのセリフを吐かれたら、さすがの警察だって「それはお気の毒に」と答える他なかろう。結局、出火原因は「タバコの不審火」に落ち着いた。
最後の仕上げは保険屋への連絡である。これは証書の番号を聞かれても、燃えたせいで一切わからないというように答えさせた。どうせそんなもん、親父の名と住所を言えばいいのだ。
保険会社の調査員が堀田に会いにやって来たのは、出火日の翌々日だった。鋤代半ばのサラリーマン風の男で、すでに警察、消防で事情を確認済みのようだ。この調査員が私のところへ電話をかけてきたのも当然のなりゆきだろう。が、なにも恐れることはない。堀田と夜9時から12時過ぎまで酒を飲んでいたこと、家まで送ってやったがかなり酔っぱらっていたことなど、ありのままの事実をしゃべってやれば十分だ。
「しかし、大変ですよ。ヤツも住む所なくなっちゃって。酔ってたから、火が出るの気づくの遅くなったかもなあ。それで家族の方、無事だったんですか?」
逆にこっちから質問するぐらいの自然な感じなら、疑われる余地もない。というか、相手の口ぶりからして、単にやっつけ仕事をこなしているだけで、ヤル気というものがほとんど感じられない。きっと、ほとんどのケースで金を払っているのだろう。
1カ月後、堀田は2600万円の金を手にした。約束どおり、私の分け前は260万。車でも買い換えるにはちょうどいい額だ。

焼け野原のような畑の横に、田舎町には珍しいモダンな桧造りの家が建ったのはそれから約半年後のことだった。これを機に、私はいくつかの保険金詐欺を働くようになった。一発目がデカイ仕事だっただけに、妙な度胸が付いてしまったのである。

かといって、もめ事はたくさんだ。リスクがあり過ぎるし、堀田家のように古い、持ち家、周りが空き地、保険金が高いといった条件などでるもんじゃない。
ちょっと周りを見れば、もっと身近でも余地はまだまだたくさんあるのだ。
自動車保険の中の一種である「対物賠償保険」などはその最たる例だろう。これは、例えば自分の車をぶつけて他人の車や電柱、建物、所有物を壊したときに下りる賠償金のこと。特に、所有物に関しては、その値段分の賠償が付くのが常識だ。
私の場合、知り合いに古物商がいたことが、この保険金詐欺を可能にする大きな要因だった。
少し話はそれるが、読者のみなさんの中にはいわゆる骨董品やプレミアムグッズと呼ばれるモノを集めている人もいることだろう。では、プレミアをプレミアたらしめるものはなにか。いちばん正式な形としては、やはり古物商による鑑定である。
仮に、どこから見ても安物のコーヒーカップを古物商(あるいは鑑定師)が「非売品のキャラクターモノだから1個3千円」という裁量を下せば、それはたちまち3千円のプレミアグッズに化けてしまう。しょせん、モノの値打ちなんてのは主観的なもの
に過ぎず、売る方の都合なのだ。

カンのよい人ならもうお気づきかもしれない。ニセのプレミアモノをデッチ上げ、ワザと他の車を衝突させることで壊してしまう。そして、壊した側から値段分の賠償金をブン取ろうというワケだ。
私はまず、100円ショップやそこらの雑貨屋で安い皿を別枚、値段にして約1万円分ほど買い、知り合いの古物商に頼み込んで1枚2万4千円、合計120万の領収証を発行してもらった。
これを自分の車のリアトランクに載せ、停車しているときに友人の車に後ろからカマを掘ってもらう。ブツけた人間が知り合いだなんてあまりに出来過ぎと思うかもしれないが、田舎ではよくあることだ。
ある日曜の夕方。信号待ちしている私のカローラの後ろを友人のマーチが突いた。
「ガッシャーン!」
さすがにそれなりの衝撃は感じたものの、お互いにシートベルトをしているので大丈夫。すかさず皿の入った段ボール箱を開けると、見事に割れまくっている。
翌日には保険の調査員がやって来た。互いの保険からそれぞれ車の修理代が出るのは当
然。問題は割れて価値のなくなったプレミア皿の方である。
「で、保険屋さん、悪いんだけど皿が割れちゃってさあ。もう価値無くなっちゃったんだよ。全部で120万くらいしたんだよね。領収証見る?向こうさんの対物保険、どうなってるのかな。なんとか賠償できないもんなの」
古物商の知り合いから切ってもらった領収証と割れた皿の現物を見せながら、保険の担当者にそう注文を付けた。同時に、ブツけた側の方にも、

「前からの知り合いだし、今後気まずい仲になりたくないから、せめて賠償金を出して
くれ」と、自分側の担当者を説得させる。
結果、私の手元には、割れた皿に対する賠償金120万、おまけにカスリ傷の10万を合わせた130万が手元に転がり込んだのだった。これを追突事故に協力してくれた友人と山分けしたのは言うまでもない。火災保険と自動車保険の両方を使ってバクったこともある。
高校の同級生・浦野が始めたリサイクルショップに遊びに行ったときだ。リサイクルとはいっても、若者受けしそうなオシャレな雰囲気はまるでナシ。置いてある商品もワケのわからない民芸品やキャラクター入りの皿、電化製品、そして安っぽい瀬戸物などだ。一応、県道に面してはいるが、あまり人気もないところなので、客の入りはサッパリだという。
「もう全然売れねえからさ、そろそろ店畳んじまおうかと思ってるんだよ」
浦野があきらめにも似た笑みで言った。確かに、かれこれ3時間近くカウンターの脇に座っておしゃべりしていたが、その間入ってきたのは、回覧板を届ける商工会のオジサンだけ。さぞや儲かってないのだろう。
「なんとかならないもんかね。せめてあと300万くらいあれば、改装でもして、マシなもんが買い付けられるんだけど」
そうボヤく浦野がどうにも不澗でならない。同級生の中ではいちばん仲のいいヤツだけに、なんとかしてやりたいという思いが沸々と湧いてくる。
「なあ浦野、おめえの店、火災保険とか入ってるか」
「まあ一応、○○海上火災」
「ちょっと見せてみろ、証書」
「店舗総合保険」と書かれた書類には、対物傷害に関する事項が細かく書き込まれていた。早い話、地震や事故などで店が壊れたり、損壊状況に応じた保険金が出るらしい。
「あのな浦野、店畳んでも借金だけ残るだろ。思い切ってひと芝居打ってみるか」
「言い出すんじゃないかと思ったよ。儲かるんなら何でもやるぜ」
芝居の筋書きはこうだ。まず、浦野の店の商品の売値をつり上げる。そして、店の一角に居眠り運転の車が突っ込む。と、店の一部はおろか、商品までもが損壊。結果、店側の損害保険とこっちの自動車保険から、店の修理費、商品の補償が出るというわけだ。車の運転手は、さすがに私がやるとヤバイから、運転の上手いヤツにでもやらせればいい。知り合いの車屋に頼んでみよう。
さっそく私は、浦野に指示して、いくつかの準備を始めさせた。
まずは店の商品の値段をどれも元の売値の平均7〜8倍に設定(こんなことをして大丈夫なのかと思うかもしれないが、賠償の対象となるのは、卸値ではなく、あくまで販売価格である。)商品の値段は、公正取引委員会の規定で卸値の10倍までならどんな値を付けてもいいことになっているのだ。
さらに、保険が下りる対象がもうひとつ。店の損益である。店の一部分が壊れて商売できないので、修復工事で営業できない日数分の売り上げを、ぶつけた自動車保険の方からカバーしてほしい。通らない道理ではなかろう。実際、最近の損保商品ではごく当たり前のように行われている賠償なのだ。
ただ、売り上げを補填してもらうには、証拠物件として過去の帳簿が必要になってくる。浦野の帳簿を見せてもらうと、1日の平均売り上げは約2万円。思ったとおり、苦しい数字である。
「いっそのこと細工して付け直しちゃおうぜ、帳簿」
私は過去1年分の帳簿を約1カ月かけて浦野に作り直させ、1日の平均売り上げ2万円を加万になるようデッチ上げた。

いよいよ本番.夜9時閉店同時に、中古車屋で働いている友人の匿永に頼み、廃車寸前のRX7で店の角に突っ込ませる。
「ガチャン」というモノすごい音がして、辺り一面にガラスの破片が飛び散った。車屋だけにさすが運転の腕前はピカイチだ。
案の定、店舗もガラス戸が派手に割れ、内に陳列してあった商品のほとんどが落っこちて、破損した。特に、皿や焼き物は粉々に壊れている。
「バカャローー.ウチの店に何すんだよ」
「すいません」
とたんに駆け付けて怒鳴る浦野、ひたすら謝る麿永。ここまでは筋書きどおり。一応、警察にも連絡した上で「民事で解決する」と引き取ってもらい、すぐに双方の保険屋へ連絡させた。
こうなると、本人たちもさることながら、各々が加入している保険屋同士の話し合いになる。果たして、加害者である康水側の自動車保険からは、店の修理費用200万と商品の弁償代100万、それに工事が20日間くらいかかるから、その分の売り上げの補填額として200万、計450万が支払われた。
さらに、浦野が加入している保険からも、工事代、商品代が出ることに。工事にかかる額を差し引いても450万以上の儲けである。私はそのうちの1割をいただき、ドライバー役の贋永には謝礼として30万円を渡した。結果、浦野の手元には、店鋪改装費としては十分な350万あまりの金が入ったのである。