防犯対策・詐欺の手口

実際にあった詐欺の手口や事件、犯罪者の告白です。防犯対策・防衛のための知識としてお読みいただければと思います。

当て逃げ・ひき逃げの被害者になり加害者を突き止めた話

交通事故‐加害者、被害者の別、規模の大小はさておき、自分がその当事者になるのはさほど珍しいことではない。あなたの周囲にも事故経験アリの人は少なからずいるだろう。
しかし、ひき逃げの被害に遭い、自らその犯人を突き止めたのは、世の中広しといえど、私1人ぐらいではなかろうか。
本来なら警察が担当すべきひき逃げ事件を、なぜ当事者の私が独自捜査するようになったのか。また、私はいかにして犯人を追いつめたのか。このルポが、皆さんがもし万一、交通事故に遭った際の参考になれば幸いだ。
男は車線を車に戻すと猛スピードで逃走した岐阜県可児市に住む私たち一家4人が、その事故に遭遇したのは今から4年前のことだ。その日、私は家族を車に乗せ、
歯科検診に出かけた。帰りにラーメン屋で夕食を取り、帰路に付いたのが7時半過ぎ。そのとき車には、チャイルドシートに座った当時3才の長女が助手席に、後ろのソファに妻と、彼女の膝の上で当時5才の長男が眠っていた。
事故は午後7時、市内交差点で起きた。右折ラインの先頭で信号待ちし、青に変わったと同時に交差点の中心まで車を進めると、対向車の先頭にいたトヨタ車がフラフラ前に
出てきた。
直進するにしてはちょっとこちらに寄り渦一ぎてないか。ひょっとして右折するのだろうか。いや、ウィンカーは出ていない。おかしいな、あの車…。と思った瞬間、
いきなり、そのトヨタ車が私の車に正面からぶつかってきた。
ガシャーン!
思わず前につんのめり、フロントガラスに激突する私。長女と、前の座席までふっとんできた長男は火がついたように泣き出した。妻も首を痛めたらしく、首筋を押さえている。
あのトヨタ野郎.思わず前を見ると相手のドライバーと目が合った。60才過ぎの初老の男だ。男がゆっくり車をバックさせる。道脇に止め詫びに来る気か。くそ、ダダじゃ済まさんぞ。そう思い私が車を降りた瞬間だった。なんとその男、車を車線に戻すや猛スピードで逃走してしまったのだ。
『お、おい、ちょっと待て!』
あまりに信じられない事態にしばし呆然とするも、すぐに携帯電話で警察に通報。交差点で当て逃げされたこと、事故の反動で後ろの2台にも玉突きしてしまったこと、エンジン部分が全壊して動かすこともできないことなどを話す。
冷静に説明したつもりだが、子供の泣き叫ぶ声に実際はかなり興奮していたに違いない。とりあえず、車をどかしてしまいましょ。
私のすぐ後ろにいた男性に手伝ってもらい、車を道の端まで押していく。
「どうもすいません」
「いえいえ。ところで、逃げた車のナンバー見ました?」
あ.見てない…。相手が逃げた瞬間パニック状態になり、とてもそんな余裕はなかった。
「ですよね。僕、一応メモしたんですけど」
そう言って、男性が差し出してくれたのは、逃走車両のナンバーが書かれた1枚の紙きれ。

「へ.53××」とある。地名部分はわからないらしいが、私にしてみれば神の助け。これがあれば、すぐに犯人は捕まるだろう。
男性に丁寧にお礼を言うと、今度は別の通行人が「ナンバー見ましたよ」と近寄ってきた。やはりみんな注意して見てくれてたんだ。と、感謝したものの、そこで教えられたのは先ほどの男性のメモとは微妙に違う番号。どちらが正しいのか。それともどちらも違っているのか。いずれにせよ、ナンバーからの犯人特定に大きな期待はしない方がいいかもしれない。
その代わりというわけではないが、私は事故現場で重要な証拠物件を発見する。テールランプの破片である。状況的に相手の車両から壊れ落ちたものに違いなく、しかも裏に小糸製作所というシールが貼られていたのだ。バカめ。こんな遺留品を残して逃げられると思ってんのか。
犯人してみれば、ランプが破損した車にそのまま乗り続けるのはいかにも危険。必ずや、近日中に工場に修理を依頼するに違いない。そうなれば、きっとそこから足が付くはずだ。午後8時、岐阜県警のパトカー到着。車を降りてきた警官に、事故の状況を説明する。もちろん、先の男性2人がくれたナンバーのメモとランプの破片を渡すことも忘れない。
「一応、物損で扱っとくけど、体に異常があれば人身にするから。病院へ行ったら診断書をもらってきて」
調べが一段落したところで、警官が言った。ひとまず今日はこれで帰っていいらしい。
ディーラーが持ってきた代車でようやく帰宅。私の車はレッカーで運ばれ、あえなく廃車となった。
翌日、子供を連れ病院へ。診断の結果は、長男は奇跡的に傷一つ負っていなかったが、長女は頚部打撲と擦過傷、妻は頚部捻挫、私は頭部打撲と両膝打撲で全治1週間。治療費には5万円を要した。
もちろん自腹である。
医師に事情を説明、診断書を作成してもらい、その足で管轄の可児警察署に出向く。
「昨日事故にあった野並です」
「ああ、はいはい。で、どないしましたか」
「病院へ行ったら、全治1週間とのことで診断書をもらってきたんですが」
「あ、そう。じゃあ、人身に切り替えとくな」
「あの、犯人の目星はついたんでしょうか」
「今それを調べてるから。何かわかったら連絡するよ」
「はァ…」
警察の対応はいかにも面倒臭そうだった。こんなので大丈夫なんだろうか。真面目に捜査し、犯人を挙げる気はあるのか。急に不安になってくる。
が、自動車業界の知人に相談してみたところ、ナンバーと、遺留品のランプがあれば、まず間違いなく犯人が特定できるはずだと。
「警察に任せとけばきっと見つけてくれるって」
知人の言葉に安心した私は、警察からの連絡をひたすら待った。
が、待てど暮らせど、警察は電話1本よこさない。シビレを切らし、こちらから電話しても「捜査中です」と繰り返すばかり。
いったい、いつまでかかるのか。もう待てん、こっちから行ってやろうか。と思っていたところ、事故から10日目にしてようやく連絡が入った。犯人の目星が付いたのだろうか。
「ナンバーを調べてみたんやけど、やっぱり別の人のモンやったわ」
「はァ…」
「そういうことだから」
そういうことって、どういうことなんだ。
「あの、ランプはどうなったんでしょうか」
「ランプ?」
「現場に落ちてたランプがありましたよね」
「ああ-。ちょっと、今そばにないからわからんね」
「工場とか捜査してないんですか」
「まだしてないね」
してないじゃないだろ!しるよ、早く。が、担当の警官はのらりくらりとするばかりだ。そりゃあ、警察にしてみればひき逃げなど紙っぺら1枚のことかもしれない。が、私たち家族にとっては一生に一度あるかないかの一大事。もっと真面目に捜査しろよ。それがアンタらの仕事だろ!
いや、このヤル気のなさでは、もはや期待しない方がいいかもしれない。このまま警察に任せていたら、見つかる犯人も見つからないのではなかろうか。よし、こうなったら自分で捜査してやろう。もともと、あのランプの破片は私が見つけたのだ。素人の私でも、専門家に見せれば車種が特定できるかもしれない。
「そんなことできるわけないだろ!」
ランプを返してほしいという私の申し出を、署員はなにをバカなこと言ってるんだという顔で一蹴した。まあ予想どおりだ。しかし、こっちもすんなりとは引き下がれない。
「だって、何日たっても車種も特定できないじゃないですか」
「それは私らがやるから」
「私は私で、できることをやりたいんです。捜査協力させてくださいよ」
しばし押し問答していると、奥から交通課長が出てきた。
「どうした」
「こないだ事故に遭った野並さんが遺留品のランプを貸せと言ってるんで」

「ナニ?」そこで再び交渉。警察の捜査を邪魔する気はない。しかし、手掛かりは今やあのランプしかない。自分には自動車業界の知人がいて、何か分かることがあれば調べたい。その結果は必ず知らせる。預かり証も書く。だからあのランプを貸してくれ。頼む、お願いだ。私にとっては大事件なのだ。

「わかりました。その代わり、必ず返してくださいよ」

「返します返します」私の熱意が通じたのか、ついに交通課長がランプを持ってくるよう、部下に指示を出した。が、数人の課員が右往左往するとばかりで一向に出てこない。どこに保管していたかさえはっきりしないようだ。数分後、ようやくランプが出てきた。が、なんと未だにビニールをかぶったまま。これじゃ、犯人なんて検挙できっこない。この10日間、私がどんな気持ちで待ってたと思ってんだ。預かり証を書きながら思わず憤慨してしまう。しかし、ここで無用なトラブルは禁物。私はランプを受け取ると、礼を言って警察署を出た。
さて、何から始めようか。とりあえずトヨタの営業所にでも行ってみるか。相手が白のトヨタ車であることはわかっているのだ。

「すみません」「はい、いらっしゃいませ」

「これ何の車に使っているか、わかりませんか」

最寄りのトョタ営業所で、ランプの破片を見せつつ事情を説明する。と、話を聞いてくれたその営業員、私にいたく同情し、「ちょっと待っててください」と整備士を連れてきてくれた。全長30センチにも満たないランプの破片を手に取ってしげしげ眺める整備士。私は祈るような気持ちで彼を見つめた。

「これはカリーナだよ。それもグレートの高いやつ。SGかSG-1だな。この部品を使ってるのはそれしかないよ」

さすがーよし、これで一歩前進だ。と、思う一方で警察への怒りが沸き上がる。車種なんて簡単に特定できるじゃねーか。もっとも、今のところ該当の車を修理に持ち込んだ人間はいないと言う。後で別の2つの営業所にも行ってみたが、そこでも収穫はながった。聞けば、トョタの営業所は岐阜県内だけで41軒あるらしい。41軒か。っーむ、やはりしらみ潰しに当たるしかないのか。何か、もっと要領のいい方法はないものか。そのアイデアは妻から出た。私が自宅に持ち帰ったトョタの営業所の一覧表にFAX番号を記載されているのを見て「FAXを送ればいいじゃない」と提案したのだ。なるほど、いい考えだ。

「カリーナだってことはわかってるんでしょ。警察公認だ』って送っちゃいましょうよ」早くも

〈私、野並幸男は至る9月20日午後7時50分ごろ、人身アテ逃げ事故を負わされました。加害者の車は白のカリーナ…〉と紙に書き始める妻。彼女もよほど腹に据え兼ねていたのだろう。私もこうしちゃいられない。ランプの裏に書かれていた製作所は、おそらくそのランプを製作したメーカー。ということは、小糸製作所がどこにそのランプを納品しているかを知れば、そこから犯人が車を修理に出した工場にたどりつけるのではないだろうか。さっそく104に電話、岐阜県内で営業ずる小糸製作所はないか聞いてみる。「複数あったら、それ全部教えてほしいんですが」

「かしこまりました。少々お待ちください」カチャカチャとキーボードを操作する音。頼む。あってくれ。

「お待たせしました。多治見市に1軒だけ、お届けがございます」やったー
「はい、小糸製作所です」電話に出たのは、従業員の男性だった。わりと丁寧な口調である。

「誠に恐れ入ります。私、可児市野並という者ですが、実は今月の20日にでね・・」私は、事故の経緯からこれまでの捜査結果、遺留品のランプにたまたま示糸製作医のシールがあったこと、この部品を卸している先を知りたいことなど、できる限り丁寧に説明した。「なるほど、それはお困りでしょうね。シールに書いてありませんか。それを教えてもらえば納品の時期や納め先がわかるんですか」「番号ですか」見ると、6ケタの番号が書かれている。
「×××ー×××とありますが」「xxx-xxxですね。少々お待ちください」

男性はコンピュータに入力して調べてくれるという。親切な人でよかった。

「ありましたよ。今年6月に納品していますね」6月ということは、相手の車はまだ買って2-3カ月の新車じゃないか。「で、納品先はトヨタ本社となってますね」トヨタかあ。トヨタ車の部品なのだから卸している先もトヨタであって当然だろう。しかし、私の知りたいのは、犯人の車に付いていたランプがどこに納品されたかはでなく、その壊れたランプと同じ部品を扱っているところだ。これもトヨタに聞けばわかるのだろうか。「ありがとうございました」丁寧に礼を言い、すぐにトヨタに電話をかける。が、対応してくれた相手がこちらの主旨をまったく理解してくれず、挙げ句にお客
様相談センターのようなところへ回される始末。当然、そこの担当車にも、まったくわかってもらえなかった。うーん、どうしたらいいんだ。

望みはFAXを送った県内41カ所のトョタ営業所だけだが、そこにも修理が出されていなかったら万事休す。犯人へ続く糸が切れることになる。何かいい方法はないものか。他に頼れるところもなく、とりあえず、前記した自動車業界で働く知人に相談の電話をかけてみる。

「……というわけで、困っとるんだわ」

「そうか。そしたら、各務原に岐阜共販ってとこがあるんだけど、そこに問い合わせてみたらどうだ」「岐阜共販?」

「早い話が部品の問屋だよ。岐阜にある自動車工場は部品が必要になると、みんなそこに発注するんだ。小糸製作所も卸してると思っんだけどな」「ランプの部品もか」

「うん。岐阜共販にはトョタもホンダも関係なく、岐皐中のメ―カーが自動車部品を卸してるからね。犯人が車の修理を出した工場も、岐阜共販から部品を取り寄せてるはずだよ」これはいいことを聞いた。当たるべきは岐阜共販。ここかり必ず犯人までたどりついてやるぞ。
翌日朝9時。営業開始早々に岐阜共販に電話を入れてみる。が、あいにく休み。気合いを入れていただけに何とも残念だ。妻は、昨日FAXを送った県内のトヨタ営業所すべてに連絡を取っている。しかし、どこにも該当のカリーナは修理に出されていないようだ。犯人はトョタに関係ない町工場に修理を依頼したのだろうか。となれば、ますます岐阜共販の線が強くなる。さて、私は何をやろうか。他にやるべきことはないか。…そうだ、看板を作ったらどうだろう。事件の詳細を書いた看板を街中に立て、目撃者の情報を募るのだ。幸い、親戚に塗装業者がいる。彼なら格安料金で作ってくれるかもしれない。ワケを話すと案の定、決く引き受けてくれた。

<9月20日(水)午後7時50分頃、この交差占一においてカルタスの白とカリーナの白の交通事故が発生しました。事故を見た方はご連絡下さい〉

文面はこれでいいとして、連絡先をどうしようか。私の自宅にするか、警察署にするか。ここはランプを借りた交通課長に電話で相談してみよう。

「目撃者を募る看板を立てようと思うんですが、これは私の自宅か可児警察署かどっちの連絡先がいいんですかね」「ナニ?」「やれることは何でもやってみたいんですよ」「わかった、わかったよ。それじゃあ可児警察署交通課と入れといてくれ。署の方でいいから」

私の勢いに押されたのか、課長はすんなり承諾。看板3枚の製作費7万円も「捜査経費として出す」と申し出てくれた(この金は私がとりあえず立て替え、後で警察から戻ってきた)

この後、私は妻と2人で岐阜県警の本部に出かけた。正直、管轄署は、これ以上あてにならない。本部の交通課へ行って、もっと迅速に捜査してくれるように陳情するのだ。ところが、そこで対応してくれた交通課の幹部は、私が持参した遺留品のランプが署から借りたものだと知るや、突然仰天して言った。

「貸し出しなんかやってない。可児署はいったいどうなってんだ」

「そんなこと言われても、このとおり借りたんです。預かり証書かせてもらいました」幹部はランプをしげしげと見ている。

「でも、おかげでひき逃げ犯の手掛かりが得られたわけですよ」「…それはわかるけど、とにかくこのランプは可児署にもう返してもらえませんか。もっとしっかり捜査するよう、こちらからも言っておきますから」ヤブ蛇だっただろうか。まァいいだろう。すでに小糸製作所には間い合わせてるし、パーツの郵称もわかっている。もうランプに用はない。
翌日朝、電話で岐阜共販の場所を確認した上で、直接会社へ出向く。電話での問い合わせより、面と向かって説明した方がいいだろうと考えたのだ。

「恐れ入ります。ランプの受注について少々お尋ねしたいんですが」

「どうかなされましたか」相手をしてくれたのは、流通を管理する担当者だ。「はい、実は9月20日に事故に遭いまして…」

これまでの経過を丁寧に説明し、あとは岐阜共販さんさえ協力してくれれば犯人が割り出せる段階まできていると、診断書見せながら頭を下げる。頼む。頼むから協力してくれ。「お願いします」「わかりました。9月以降にその部品の発注があったところを調べればよろしいんですね」「えっ」断られたらとどうしようと思っていただけに、思わず拍子抜けしてしまう。

「ご協力いたしますよ。ウチとしては注文のあったところに商品を卸しているだけですから、何もやましいことなどありません」

聞けば、前までのものなら、コンピュータで瞬時に照会できるらしい。ということは、私の場合、ほとんどギリギリ。これもすべて警察がノロノロしていたからだ。

「ありましたよ。1軒は高山なんですが、もう1軒は多治見ですね」

問題の部品の注文があったのはその2軒だけらしい。高山は可児から50キロ近くも離れた山の中。そんなところまで修理に出しに行くだろうか。いや、その可能性もゼロではないが、多治見なら可児から10キロほどしか離れていない。こっちの方がいかにもクサイ。

「あのもしよろしければ伝票のコピーもいただけませんか。警察にもそれを見せて説明したいのです」「ええ、構いませんよ」ありがたい。急場の親切は本当に心にしみる。私は担当者がくれた伝票のコピーを手に岐阜共販を後にした。
多治見市にあるここが犯人が車を出した工場なのだろうか。少し緊張を覚えつつ、伝票に載っていた番号に電話をかける。

「はい、イスコ多治見でございます」出たのは若い女性事務員だ。

「あの、そちらにランプAssYクリアランスという部品を卸したと岐阜共販さんに聞いたんですが、聞遅いありませんか」

「ランプAssYクリアランスですね。日付はおわかりになりますでしょうか」

「9月26日と聞いておりますが」

「かしこまりました。少々お待ちください」相手に不審がる様子はない。どころか、妙に親切でバカ丁寧だ。事務員だから事情も知らず、誰にでも愛想がいいのだろうか。「ございました。9月26日、確かにランプAssYクリアランスを一つ納入しております」事務員の話では、イスコ多治見は岐阜共販から卸した部品を販売する店で、いわば間屋の関係にあるらしい。ということは、イスコ多治見から問題の部品を取り寄せた工場があるはず。そここそ犯人が修理を依頼した工場に違いない。そこで私は、また詳しく事情を説明し、協力を願った。

「なるほど。それでしたら確かにウチは岐阜共販からその部品を取り寄せしましたけど、直接修理をしたわけではありません。部品はM自動恵に納品しましたから」

「M自動車、ですか」「そ、可児市にある自動車工場です」ついに突き止めた…。犯人はここに事故車の修理を依頼したのだ。104に問い合わせ、M自動車の住所を地図で確認して驚いた。なんと、わが家のすぐそばだ。こんな近くの工場に犯人が修理を出したのかと思うとさすがにアゼンとしてしまう。

いよいよ最終局面。私は車に飛び乗ると、すぐ『M自動悪に向かった。道中、念のため携帯電話で問い合わせしてみる。

「オタクにイスコ多治見から、ランプAssYクリアランスという部品がいってますよね」「えっ。…入ってないよ」

「いや、イスコ多治見がオタクに卸したと聞いてるんですが」「そんなこと言われてもないものはないですよ」電話に出たオヤジは終始無愛想に言った。そこで、一度電話を切りイスコ多治見に再確認してみると、先ほどの女性事務員が間違いないと断言する。あのオヤジ、やはり何か隠しているのだ。改めて、M自動車に電話。

「…と、イスコ多治見は言っている。オタク、何でごまかすんだよ」

「だから太当にないんだって」「まァええわ。今からそこへ行くから、ちょっと待っとれ」M自動車に着くと、中に男が1人。社長らしい。
「あっ、さっき電話くださった方ですね」
その声は、さっきのふざけたオヤジ。テメー!と怒りがわいてくるものの、まずは事情を説明するのが先決だ。
「とにかくオタクにカリーナのライトの部分であるランプASSYクリアランスが入りましたわな。この部品がSGかSGllという2種類の車にしか使われていないこともわかってるんですよ。オタクにランプの壊れた新車のカリーナが修理に出されてきたでしよ」
「いやぁ、ぜんぜん知りませんよ。そんなの」
「こっちは警察公認なんだ。ほら、伝票のコピーもある。誰が頼んだのか、それさえ教えてくれればいいんだよ」
だんだん語気が荒くなる。が、男はあくまでシラを切り、最後にこう言い放った。
「今日は工場休み。だからワシの頭も休みなんだ。もう帰つとくれ」
「何だと・・・」
この男、どうしてここまでしらばつくれるのか。思わず、キレでぶん殴りそうになる自分を必死に抑える私。よし、アンタがそこまで言うなら、今日のところは帰ってやろう。しかし、明日にも警察が行くから覚悟しとけよ。
その日は夜遅かったので、翌朝、一番で可児署交通課に電話した。
「M自動車に犯人の車があるのは間違いありません。とにかく、早く捕まえてくださいよ・何なら、私も一緒に行きましょうか」
「わかった、わかりました。あとはこっちでやります。野並さんは自宅で待機していてください」
今度遅かったら承知せんぞ、と思いきや、そこからは警察は早かった。午前中にM自動車へ駆け付け、問題のカリーナを確認。店主に事情聴取して依頼者を割り出したところ、可児市内のYという男と判明し、即日逮捕したのである。事故からちょうど2週間たった10月4日。その夜、私は家族と祝杯をあげた。
逮捕から2日後、保釈されていた犯人のYが奥さんと2人で土下座謝罪に訪れた。
私の詰問に首をたれ「ごもっとも」「ごもっとも」と繰り返す。

「交番には届けたが可児署には行ってなかった」などとウソ臭い言い訳もしていた。
「それでウチは全治1週間で病院にも行っている。この補償はしてくれるんでしょうね」
「もちろんでございます。本当に申し訳ございませんでした」
ひたすら平身低頭する背広姿のY。きっちり補償もしてくれると言うし、ここまで下手に出られれば、私だって鬼じゃない。あとは示談金の問題さえ片づけばそれでいいだろう。
「150万出させていただきます。もちろんこれは保険とは別口です。どうかこれでご了承いただけませんでしょうか」
150万よくそんな金が即金で出せるものだ。アンタ、何をしてる人かね。
「い、いえ…。ただの無職です」
「無職の人がそんなに出しても大丈夫なのかい」
「いえいえ、ご迷惑をかけたわけですから…」
結局、私とYは150万円で示談書を交わすことにした。が、Yには道交法違反の刑事裁判も残っており、そこでも罰金を支払わされるだろう。逃げたりしなければそんなこともなかったのに、なぜあのとき逃げたんだ。
しかし、私がそのことを聞いても、Yはうなだれたままずっと黙ていた。
いずれにせよ、事件はこれで終わった。後日、保険金はきっちり支払われたし、私たち一家はYとの示談金150万円で4WDの新車も買った。めでたしめでたし、これで一件落着。
と言いたいところだが、この話にはまだ続きがある。
地元の新聞記者から電話がかかってきた。聞けば、ひき逃げ犯人のY、なんと現職の可児市会議員というのだ。私には無職と言っておきながらなんて野郎だ。
でも、これで150万がポーンと出せたのも納得がいく。また、
M自動車のトボケ男がああまで頑強にしらばっくれていたのも、このY先生に対する配慮だったのだろう。Yの後援会の関係者か、それともYから口止め料でももらっていたか。いずれにせよ、Yが市会議員だったからに違いない。
「世間の関心を喚起したいのです。どうか取材にご協力ください」
記者の要請に応じて、私はこれまでのことを洗いざらい話した。
Y議員は「示談はついた。議員は辞めん」と言っ一斉に各紙朝刊に掲載される。ているらしい。呆れた男だが、私にはもう関係ない。加害者に事故を起こした責任を取ってもらった。それだけのことだ。

皆さん、万が一ひき逃げ、当て逃げの被害に遭っても、警察を過信してはいけない。同時に、証拠さえあれば、一般個人でもかなりの捜査ができることをお忘れなく。私がそうであったように。